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Riunione

「篠崎さん、ここです。俺の最近のおすすめ!」 会社の後輩である山下に連れてこられたのは、真新しい外装のイタリアンレストランだった。 先日仕事のミスが見つかり泣きそうな顔して残業していた山下。 それを見かねて手伝ったのがよほど嬉しかったのだろう。 『ぜひお礼をさせて下さい!』 と頭を下げられ、こうして仕事帰りに食事に来ている。 「ここね、本当に最近オープンしたばかりで。味も旨いんですけど...それ以上にすっごい美人が居るんですよ!」 やや顔を赤らめながらそう言う山下に、つい笑ってしまった。 「お前、俺にお礼するのはただの口実で本当はその女性に会いたいだけだろ。」 「ち、違いますって!」 「ま、そう言うことにしといてやるよ。で..入って良いのか?」 慌てる姿が可笑しくてクスクス笑いながら店の扉を指差せば「もちろんです。」と山下が先に入っていった。 その足取りがどこかウキウキして見えるのは気のせいではないと思う。 続いて入ろうとして、何気なく扉の上に設置されている看板に視線を向ける。 そうしてそこに書かれている店名を確認して足が止まった。 この名前.... 『Riunione』 イタリア語で書かれたその名前は、蒼牙の口から聞いた店と同じだったー。 「悪い。ちょっと電話してくる。」 向かいに座った山下に断りを入れ席を立つ。 入り口で固まっていると「篠崎さん、どうかしたんですか?」と迎えに来られ、今さら断るわけにもいかず店に入った。 案内してくれた店員は雰囲気の柔らかい男性で「彼女今日は休みなんですかね?」と山下はややガッカリした様子であったが、俺は内心ホッとしていた。 蒼牙と話したあの日、美波さんと一緒に歩いていた事情も聞いた。 『オーナーから言われたんですよ。オープンする店の新しい制服を美波さんと受け取りに行けって。そうじゃないと一緒に歩いたりなんかしません。』 眉間にシワを寄せそう言った蒼牙。 腕を組まれて『こうしてるとカップルみたいに見えるよね。』と言われたのが心底嫌だったらしい。 その時に聞いた店名が『Riunione』だった。 まさかこんな形で訪れることになるとは思っていなかったし、訪れるつもりもなかった。 それなのに...あれほど蒼牙が警戒していた美波さんが働いているこの店に、こうしてノコノコと来ることになってしまったことが気持ち悪い。 ...とりあえず、蒼牙に連絡しておこう。 そう思い店内を移動していると、柔らかい声が俺を呼び止めた。 「お客様、お電話でしたらあちらに待ち合いスペースがございます。どうぞ。」 「あ、どうもありがとう...っ、」 お礼を言いながら振り向いたその先には、確かに見覚えのある姿。 すらりとした手足。 バランスのよい身体に一つに纏められた長い髪。 メニューを片手に微笑むその顔は、完璧に作られた人形のように美しい... あの日、蒼牙の隣を歩いていた『彼』がそこに立っていた。 「どうかなさいましたか?」 思わず言葉を失った俺に美波さんが首を傾げる。 その様子は女性のようにフワリとしたもので、男性だと聞いた今でも錯覚しそうになる。 「いえ、何でも。ありがとう、向こうですね。」 平静を装いながら側を通りすぎる。 彼が俺のことを知っている訳ではないのだから、何も気にすることはないのに...心臓がドクドクと煩い。 案内された待ち合いスペースで大きく息を吐き蒼牙に電話を入れる。 まだ仕事中だと分かっているが、もしかしたら出るかもしれない...というか、出てほしい。 ちゃんと言葉で知らせたくてそう願ったが、数回のコール音の後それは留守電に切り替わった。 出られるわけないよな... 仕方なく留守電にメッセージを残す。 電話を切り、画面を見つめながら大きなため息が出てしまう。 食べたらさっさと帰ろう。 山下には悪いが、理由をつけて帰るのが賢明な気がする。 テーブルに戻りながら店内を見渡し、他のテーブルに彼が料理を運んでいる姿を視界の端に捉えながら椅子へと座った。 「篠崎さん、彼女です。ね、綺麗な人でしょう?」 「.....ああ、うん。」 山下の言う『彼女』がやっぱり美波さんであったことに思わず苦笑いしてしまう。 どこか興奮ぎみの山下とは反対に、彼がこのテーブルに来ませんように...と願わずにはいられなかったー。

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