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「…っ、ここ…?」 ゆっくりと室内を見回し、戸惑ったように揺れ動いた瞳がもう一度俺に向けられる。 「俺の家、店から近いんだよね。ところで...気分はどう?」 微笑みながら顔に触れれば、その手を掴まれた。 「...何が目的ですか?」 「.........」 真っ直ぐに見つめてくる意思の強い瞳。 その目は『貴方など怖くない』と語っていて、ゾクッとした。 「良いなぁ、悠さん。俺が吸血鬼って秋山くんから聞いてるんでしょ?知っててその態度って、ほんと最高。」 「...!やめっ、!」 掴んできた手を逆に掴み直し、血の止まった傷口を舐める。 驚き引こうとした手をグッと握り「無駄だよ。」と傷口に更に舌を這わした。 「放せ..!」 「っと、無駄だって。貴方が俺に力で敵うわけ無いでしょ?」 「っ、!」 抵抗し振り上げてきた反対側の手を受け止め、ベッドに縫い付ける。 そのまま体重をかけて押さえつければ、彼の体が強張るのが分かった。 傷口に吸い付きながら視線を向けると、そこには青ざめた表情。 それが恐れなのか、嫌悪なのか...読み取ることはできないが、彼が僅かに震えているのが伝わってくる。 チュッ... 口の中に広がる甘い血の味。 これまで飲んできた中で、確かに群を抜いて美味いかもしれない。 けど...それだけだ。 他に誰の血も要らないなんて、そんな気持ちにするほどのものではない。 どうして秋山くんは彼に固執する? どうしてこの男は、こんな風に震えるくせにそれを許す? 「....分からないな。」 「......?」 呟きと共に口と手を離せば、その手を庇うようにしながら見つめてきた。 傷口からは吸い付いたことで新たに血が滲み、室内にその香りが満ちていく。 「ねぇ、なんで秋山くんと一緒にいるの?」 「は...?」 「もしかして、秋山くんのセックステクがすごいの?だから離れられない?」 「何言って...っ!」 枕元に置いていたネクタイに手を伸ばす。 そうして庇っていた両手首を掴み上げ素早くそこに巻き付け縛ると、ベッドの柵に繋ぐ。 まだ思うように体が動かないのか、抵抗する体は容易に押さえ付けることができた。 「...わお、思ったより倒錯的で良いね。」 「....何がしたい、放せ。」 静かに睨み付けながら呟かれる言葉に怒りが込められている。 それが余計に俺の中の加虐心を擽った。 「そうだね、こういうことするのも良いかな。」 スルリと手を彼の下半身に伸ばせば、「やめっ!」と暴れる。 ゾクゾクする。 今までこうやって無理矢理組み敷いたことはないが、もしかしたら俺にはこっちの気があるのかもしれない。 「止めて欲しかったら正直に答えて。なんで彼の側にいるの?」 「....そんなの、アイツが好きだからに決まってるだろ!」 「それ、それが聞きたいんだよね。なんで?」 「なんでって...?」 下半身に伸ばしていた手をシャツにかける。 残っていたボタンを一つずつ外していけば、体を捩って抵抗してくる。 それがまた俺を煽るとも気づかず。 「っ!」 ガバッとシャツを開けば、グッと息を飲み顔を反らされた。 「....スゴいね、これほどとは思わなかった。」 笑いを含んだ声でそう告げれば、みるみる顔が赤く染まっていく。 目前に晒された身体には無数のキスマーク。 胸の周りから下腹部にかけて点々と残されたそれは、新しいものから消えかけのものまである。 「俺達にとって吸血行為は食事みたいなものだ。あんた餌にされてるんだよ?その上セックスまでできるならこれ以上の楽しみはないよね。」 「.........」 「なのになんで貴方は秋山くんと生きていこうとしてるの?なんで好意を寄せることが出来るのさ。」 「それは...」 言葉を飲み込むと彼はゆっくりと口を開いた。 「...人を好きになるのに理由がいるのか?」 「月並みなセリフだね。まぁいいけどさ。」 ジッと見つめてくる強い眼差しが一瞬揺らぐ。 「人ならそうかもしれない。でも秋山くんは人じゃない。吸血鬼だ。あんた達から言わせれば化け物だろ?」 「..........」 「俺は知ってる。人間が自分達とは違うものに対してどれだけ残酷か。『愛してる』と語ったその口が、正体を知った途端にどれ程冷酷なことを言うか。」 「そんなこと」 「そんなことない?ならあれは俺の聞き間違いかな?」 否定しようとした言葉を遮る。 そのどこか自嘲気味な俺の声に、彼は目を大きく開いた。 化け物だなんて...果たしてどっちが化け物か。 汚い言葉で相手を傷つける、それは化け物ではないと言うのか。 『化け物!近寄らないで!』 かつて聞いた言葉を思い出し胸が痛む。 愛を交わした相手から拒絶され、恐怖に怯えた瞳を向けられたアイツは...いったいどんな気持ちだったのだろうー。 「....美波さん。」 名前を呼ばれハッとする。 一度頭を振り耳に焼き付いたあの声を振り払う。 そうして改めて彼に視線を向け、驚かされた。 なんで...そんな目をしている? そこには穏やかな眼差しで此方を窺ってくる彼がいて。 さっきまで睨み付けてきていた瞳がどこか和らぎ、探るように見つめてきていた。 「...なんで、そんな目で俺を見てるの?」 「そんな目?」 僅かに首を傾げ聞き返してくる姿に戸惑ってしまう。 気付いていないのか、今自分がどんな瞳をしているのか。 さっきまで怒り、きつく睨んできていたくせに。 「あんた、俺が怖くないの?こんな風に力で押さえつけられてるってのに。」 手首を縛っているネクタイをそっと撫でる。 薬を盛られ、拉致られ、縛られている...この現状に恐れは無いのか。 しかも相手は人間ではないというのに。 「...美波さん、質問多いな。一つずつ答えたくてもこれじゃあ答えられない。」 「.....!」 クスッと笑われる。 瞬間、身体の奥にある何かがドクッと疼いた。 なんだ、今の...? 自分が何に動揺しているのか分からない。 ただ、クスクスと笑う彼の声がやけに心地よく聞こえた。 「とりあえず、ちゃんと話がしたい。これ...ほどいてくれないか?」 顔を僅かに上げ、顎で手首を示す。 その晒された白い首筋が綺麗で。 欲しいな、この人.... 感じたことのない欲望に喉が鳴った。 「...いいよ。そのかわり、」 「ん?...ちょっ、止めろ!」 細い腰の上に跨がりニッコリと微笑み、指先で喉を辿る。 俺がしようとしていることに気付いたのか体を捩って逃げようとするのに、ゆっくりと身体を寄せた。 「大丈夫、秋山くんより上手に吸ってあげるから...」 「やめ...!」 僅かに汗ばんだ首筋。 ドクドクと流れている血の香り。 かつてない喉の渇きに突き動かされ、抵抗できない彼に身体を重ねる。 そうして、脈打つその白い首筋に牙を立てようとしたその時... ダンッ!!! 扉が壊される大きな音が室内に響いたー。

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