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理解

「へえ、スッキリしたじゃん。」 「···どうも。」 ファミレスのボックス席、そこに向かい合って座った。 ニコニコと笑う彼の頬には湿布が貼ってある。 昨日本気で殴ったからな··· 人間相手じゃないと分かっていただけに加減なんてしなかった。 それでも湿布だけで済んでいるのは、彼が吸血鬼だからだ。 「これね、流石に一晩じゃ治らなかったよね。」 接客業なのに···と笑う美波さんは、どこか晴れ晴れとした表情に見える。 「悠さんは?あのあと大丈夫だった?」 「貴方が言わないでください。···今日はいつも通り出勤しましたよ。」 「そ、良かった。」 そう言って笑うとコーヒーに口を付け、視線を俺に投げてくる。 「それで何か話があるから呼び出したんでしょ?何かな?」 「···そうですね。色々言いたいことはありますが、それは置いといて。貴方とちゃんと向き合おうと思って。」 「·········」 「貴方から逃げたから昨日みたいなことになった。だから今度は逃げません。向き合って、理解したい。美波さんが何をしたかったのか···それを知りたい。」 無言のまま見つめてくるのを受け止める。 彼に怒りが沸かないと言えば嘘になるが、それでも落ち着いて伝えることができる。 『帰ったら、その髪綺麗に揃えてやるからな』 自分のことは置いといて俺のことを案じてくれた悠さんに恥じないように。 あの人のお陰で穏やかでいられるのだから。 「···俺を『誰』と重ねていたんですか?」 「っ、」 彼が息を飲むのが伝わってくる。 これがこの人を動かした原因なのだ。 「·············」 「·············」 カチャカチャと食器の奏でる音、笑い声、流行りのBGM···そんな中で沈黙が続く。 やがて椅子に凭れかかり大きくタメ息を吐くと、美波さんはゆっくりと口を開いた。 「·········似てたんだよ。髪質や雰囲気が。『仁』と。」 「仁さん···」 「そう。もう、死んじゃったけどね。」 「···はい」 告げられた言葉に『やっぱりか』という思いが沸く。 すでに亡くなった方なのだろうと···そんな気はしていた。 困ったように笑うと、美波さんは「もう何年も前の話だよ···」と瞳を閉じたー。

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