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図星
「·········」
「呆気ないよね、歩いてたところに車がドカーン。本人もよく分かってないんじゃないかな、死んだことに。」
自分の過去を他人に話す日が来るなんて。
聞いて楽しい話でもないことくらい分かっているだけに、今の自分はどこか道化のように思える。
「それで、彼女は···?」
視線を反らすでもなく、黙って聞いていた秋山くんが小さく声を漏らした。
なんで君がそんな顔をするかな···
苦しそうな···悲しそうな顔。
それはあの日仁が見せた表情と同じで。
「葬式に来たよ。泣いてた。」
「···········」
そう···泣いていた。
あの涙が嘘だとは思わないけれど、それを見たときに無性に腹が立った。
「だからかな···余計人間が嫌いになったよね。俺には理解できない。悲しんで涙を流して···自分が否定したくせにそんな姿を見せることで罪悪感から逃れて、それで満足するような人間に心惹かれる理由が分からない。そんなことして周りに慰められて···なら仁の心はどうなるのさ···!」
「美波さん···」
呼ばれた声にハッとした。
つい感情的になっていたことに気づき、大きく息を吐いた。
「···話しすぎたね」
これ以上、自分の過去を晒すつもりはない。
そう意を込めて秋山くんを見つめる。
「···貴方が人間を嫌う理由は分かりました。」
「そう···」
「その仁さんに俺が似ていたことで、貴方がもう一度過去をやり直したいという気持ちになったことも···合点がいきました。」
「っ、」
過去をやり直す?
言われた言葉に目を見開いた。
「何を···」
「違うんですか?俺を誘ったのは仁さんと過ごした日々のやり直しですよね。それは···仁さんを止められなかったことを後悔してるからじゃないですか?」
「·········」
あの日、仁が本能に抗えなかったあの帰り道。
仁を止めようと思えば止められた。
でも、しなかった。
アイツが吸血鬼として側に戻ったことが心地よかったから···
そうして結果的に仁を傷付け、彼女を失わせてしまった。
「確かに彼女は仁さんを酷く傷付けた。それは許せない事だったと思います。けど、本当は···美波さんが一番許せないのは自分自身なんじゃ無いですか?」
「そんなこと、、、」
ない、と強く言えない。
きっと図星···なのだ。
でも認めたくない。
自分が止めていれば、仁には違った未来があったのかもしれないなんて···
黙ってしまった俺に、秋山くんが頭を下げた。
「······すみません、出すぎたことを言いました。」
「だね、ほんと嫌になる。」
視線を反らしそう呟けば、彼が苦笑したのが分かった。
「すみません。でももう一つだけ教えて下さい。」
「·······何?」
「悠さんから『何』を聞きたかったんですか?」
思わず秋山くんの顔を見つめた。
『何』を聞きたかったかなんて···
確信を突いた質問に、喉が一気に渇いたような気がしたー。
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