340 / 347

図星

「·········」 「呆気ないよね、歩いてたところに車がドカーン。本人もよく分かってないんじゃないかな、死んだことに。」 自分の過去を他人に話す日が来るなんて。 聞いて楽しい話でもないことくらい分かっているだけに、今の自分はどこか道化のように思える。 「それで、彼女は···?」 視線を反らすでもなく、黙って聞いていた秋山くんが小さく声を漏らした。 なんで君がそんな顔をするかな··· 苦しそうな···悲しそうな顔。 それはあの日仁が見せた表情と同じで。 「葬式に来たよ。泣いてた。」 「···········」 そう···泣いていた。 あの涙が嘘だとは思わないけれど、それを見たときに無性に腹が立った。 「だからかな···余計人間が嫌いになったよね。俺には理解できない。悲しんで涙を流して···自分が否定したくせにそんな姿を見せることで罪悪感から逃れて、それで満足するような人間に心惹かれる理由が分からない。そんなことして周りに慰められて···なら仁の心はどうなるのさ···!」 「美波さん···」 呼ばれた声にハッとした。 つい感情的になっていたことに気づき、大きく息を吐いた。 「···話しすぎたね」 これ以上、自分の過去を晒すつもりはない。 そう意を込めて秋山くんを見つめる。 「···貴方が人間を嫌う理由は分かりました。」 「そう···」 「その仁さんに俺が似ていたことで、貴方がもう一度過去をやり直したいという気持ちになったことも···合点がいきました。」 「っ、」 過去をやり直す? 言われた言葉に目を見開いた。 「何を···」 「違うんですか?俺を誘ったのは仁さんと過ごした日々のやり直しですよね。それは···仁さんを止められなかったことを後悔してるからじゃないですか?」 「·········」 あの日、仁が本能に抗えなかったあの帰り道。 仁を止めようと思えば止められた。 でも、しなかった。 アイツが吸血鬼として側に戻ったことが心地よかったから··· そうして結果的に仁を傷付け、彼女を失わせてしまった。 「確かに彼女は仁さんを酷く傷付けた。それは許せない事だったと思います。けど、本当は···美波さんが一番許せないのは自分自身なんじゃ無いですか?」 「そんなこと、、、」 ない、と強く言えない。 きっと図星···なのだ。 でも認めたくない。 自分が止めていれば、仁には違った未来があったのかもしれないなんて··· 黙ってしまった俺に、秋山くんが頭を下げた。 「······すみません、出すぎたことを言いました。」 「だね、ほんと嫌になる。」 視線を反らしそう呟けば、彼が苦笑したのが分かった。 「すみません。でももう一つだけ教えて下さい。」 「·······何?」 「悠さんから『何』を聞きたかったんですか?」 思わず秋山くんの顔を見つめた。 『何』を聞きたかったかなんて··· 確信を突いた質問に、喉が一気に渇いたような気がしたー。

ともだちにシェアしよう!