341 / 347
求めたもの
side 蒼牙
美波さんの過去を聞いて、この人を少し理解出来たように思えた。
自分自身への怒りと後悔···それを人間に転換することでバランスを保ってきたのだろう。
それが正しいとは思えないが、でも彼が『人間』を嫌う理由は理解できる。
『吸血鬼』である自分達を否定され、そして大切な仲間を傷付けられた。
怒りと悲しみが彼を襲ったのは言うまでもない。
そんな中で出会ったのが『吸血鬼』の俺で。
そして···かつて仁さんが得られなかったものを『俺』は手に入れていた。
「ホテルで話をしたとき、あの時俺の恋人が『人間』だと気付いたのでしょう···匂いで。だから悠さんに興味をもった。」
「···そうだね」
「悠さんから聞きました。貴方が言ったことを。『どうして化け物と一緒に生きていこうとしているのか?』って。···本当は言ってほしかったのではないですか?『吸血鬼』も『人間』も変わらないんだって、同じなんだ····いたっ!!」
「うるさい!君に何が分かるのさ!!」
「分かりますよ!俺も怖かったから!!」
ガンッと大きな音と美波さんの怒りの声が店内に響く。
それに負けじと俺も声を張り上げた。
「「··············」」
一瞬静かになった店内は、やがて俺達の沈黙を破るようにまたガヤガヤと騒ぎだす。
机の下で蹴られた脚がズキズキと痛むが、真っ直ぐに彼を見据えた。
「···君に分かるわけないだろ」
ポツリと溢れた美波さんの言葉が胸に刺さる。
「確かに、愛しい人から否定される悲しみは想像でしかありません。でも、仁さんの感じていた恐怖は分かります。」
「············」
「自分のことを告げるときどれほどの恐怖があったか。怖がられるんじゃないか、忌み嫌われるんじゃないか···失うんじゃないかって、それならいっそ隠していようかとも思いました。」
「·········」
「でも一方で、受け入れて欲しい、ありのままの俺を愛して欲しい···そう思ったんです。」
言いながら、あの日感じていた不安が思い起こされる。
美波さんの話を聞きながら、彼女がもし悠さんだったら···あの人から『化け物』と怖れられたら···と、自分と仁さんを重ねて苦しくなった。
「美波さん言いましたよね。俺達が『人間』に惹かれた理由が分からないって、あり得ないって。」
「言ったよ。ほんと理解できない。」
吐き捨てるように呟くのに、また苦笑してしまう。
「俺は悠さんが人間だから好きになったんじゃない。血が美味しそうだから惹かれた訳じゃ無いです。」
「同じようなこと悠さんも言ったよ。『人を好きになるのに理由がいるのか』って。そんなバカみたいでありきたりな答えが知りたいんじゃないよ。」
「ならこれで納得できるか?」
「は?」
「え、···!」
穏やかで柔らかい声、間違えようのないその声に振り向いた。
同時に伸びてきた手が俺の顎を掴みグイッと持ち上げると、唇に柔らかい感触が重なった。
「·········」
チュッ···
小さなリップ音と共に離れていく温もり。
テーブルの向かいには驚いたように固まった美波さん。
そして目の前には···
「変な顔してるぞ。」
そう言って笑う悠さんの姿があったー。
ともだちにシェアしよう!