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求めたもの

side 蒼牙 美波さんの過去を聞いて、この人を少し理解出来たように思えた。 自分自身への怒りと後悔···それを人間に転換することでバランスを保ってきたのだろう。 それが正しいとは思えないが、でも彼が『人間』を嫌う理由は理解できる。 『吸血鬼』である自分達を否定され、そして大切な仲間を傷付けられた。 怒りと悲しみが彼を襲ったのは言うまでもない。 そんな中で出会ったのが『吸血鬼』の俺で。 そして···かつて仁さんが得られなかったものを『俺』は手に入れていた。 「ホテルで話をしたとき、あの時俺の恋人が『人間』だと気付いたのでしょう···匂いで。だから悠さんに興味をもった。」 「···そうだね」 「悠さんから聞きました。貴方が言ったことを。『どうして化け物と一緒に生きていこうとしているのか?』って。···本当は言ってほしかったのではないですか?『吸血鬼』も『人間』も変わらないんだって、同じなんだ····いたっ!!」 「うるさい!君に何が分かるのさ!!」 「分かりますよ!俺も怖かったから!!」 ガンッと大きな音と美波さんの怒りの声が店内に響く。 それに負けじと俺も声を張り上げた。 「「··············」」 一瞬静かになった店内は、やがて俺達の沈黙を破るようにまたガヤガヤと騒ぎだす。 机の下で蹴られた脚がズキズキと痛むが、真っ直ぐに彼を見据えた。 「···君に分かるわけないだろ」 ポツリと溢れた美波さんの言葉が胸に刺さる。 「確かに、愛しい人から否定される悲しみは想像でしかありません。でも、仁さんの感じていた恐怖は分かります。」 「············」 「自分のことを告げるときどれほどの恐怖があったか。怖がられるんじゃないか、忌み嫌われるんじゃないか···失うんじゃないかって、それならいっそ隠していようかとも思いました。」 「·········」 「でも一方で、受け入れて欲しい、ありのままの俺を愛して欲しい···そう思ったんです。」 言いながら、あの日感じていた不安が思い起こされる。 美波さんの話を聞きながら、彼女がもし悠さんだったら···あの人から『化け物』と怖れられたら···と、自分と仁さんを重ねて苦しくなった。 「美波さん言いましたよね。俺達が『人間』に惹かれた理由が分からないって、あり得ないって。」 「言ったよ。ほんと理解できない。」 吐き捨てるように呟くのに、また苦笑してしまう。 「俺は悠さんが人間だから好きになったんじゃない。血が美味しそうだから惹かれた訳じゃ無いです。」 「同じようなこと悠さんも言ったよ。『人を好きになるのに理由がいるのか』って。そんなバカみたいでありきたりな答えが知りたいんじゃないよ。」 「ならこれで納得できるか?」 「は?」 「え、···!」 穏やかで柔らかい声、間違えようのないその声に振り向いた。 同時に伸びてきた手が俺の顎を掴みグイッと持ち上げると、唇に柔らかい感触が重なった。 「·········」 チュッ··· 小さなリップ音と共に離れていく温もり。 テーブルの向かいには驚いたように固まった美波さん。 そして目の前には··· 「変な顔してるぞ。」 そう言って笑う悠さんの姿があったー。

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