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V.t.4

side 悠 風呂に蒼牙が向かったのを確認すると、俺は鞄からチョコを取り出した。 午前中は結局タイミングを見失い渡せなかったから夜になったわけだが…早く渡せばよかった。 部屋のすみに置かれた紙袋に目を向け溜め息が溢れる。 たくさんのチョコレート。高級そうなラッピングから中には手作りのものまである。 別に張り合うつもりはないが、こっちはコンビニチョコだ。 恥ずかしかったとはいえ、蒼牙に申し訳ない気持ちになってしまう。 俺も昨日会社でチョコを受け取ったが、蒼牙に比べたらカワイイもので。 果たして今更チョコをあげて喜ぶものだろうか…なんて考えてしまう。 クソッ、女々しい! よし、さっさと渡してしまおう。 ぐるぐるとそんな事を考えていたら、いつの間に風呂から上がったのか蒼牙が横に座ってきた。 「それ、食べるんですか?」 頭を拭きながら聞いてくる姿に、心臓が跳ねた。 …格好良いヤツは何やっても様になるな。 「違うよ…これは。」 そう言ってチョコを手にとると、蒼牙に突き付けた。 「…え?」 キョトンとした蒼牙の顔が可愛くて、俺はフッと笑みが洩れた。 …こんな顔が見れただけでも良いか。 「お前にやる。…バレンタインだからな。」 時計を確認すると、もうすぐ12時が近い。 今日中に渡せて良かった。 蒼牙はゆっくりと受け取ると、チョコと俺を見比べながら信じられないといった顔をしてみせた。 「悠さんが…俺に?」 「そうだよ。…安物だけどな。うわッ…!」 急に抱き寄せられて驚く。 ギュウギュウと力を込めてくるから、少し苦しい。 「そ、蒼牙?」 「嬉しい、嬉しい、嬉しい!ありがとうございます。」 素直な感想と感謝の言葉。それが俺には一番で、抱き締めてくる蒼牙の背中に腕を回して応えた。 「ありがとうございます、悠さん。今まで受け取ってきたなかで、一番嬉しいです。」 少し身体を離し瞳を覗き込みながらそんな事を言う。 満面の笑顔。 本当に嬉しそうな顔と声。 それを見ると俺も嬉しくなって、笑顔で答えた。 「そうか、良かった。」 クスッと笑うと、「悠さん」と名前を呼ばれた。 「ん?」 「キスしたいです。」 「え、ンッ!」 返事をする前に唇を塞がれる。熱くて柔らかい蒼牙の唇。触れては離れ、また触れてくる。 「…ン、そ、うが…」 俺はキスの合間に名前を呼び、首に手を回したー。

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