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叔父
「…はい?」
『だから、お前の家に泊めてくれって。』
話し始めておよそ5分。
聞き間違えかと思い聞き返した内容は、俺にしてみれば迷惑な話だった。
『来週末なんだけど、商品買い出しでそっちに行くから。その日に頼むよ。』
冗談じゃない。
電話でさえ億劫だったのに、泊めるだなんて。
「俺、仕事あるんでいませんから。ホテルでも予約して下さい。」
はっきりと断ると、電話口でクスクスと笑う声が聞こえる。
…不快だ。
『そう嫌うなって。ついでにお前の様子を見てきて欲しいって、姉さんから頼まれてんだよ。』
「…。」
母親を引き合いに出され、言葉に詰まる。
『というわけで、よろしくな!』
「な、ちょっと…!」
一方的に電話を切られる。
昔からそうだ。人の良さそうな口調で、自分の都合の良いように話を決めてしまう。
俺はこの人のこんなところが苦手だ。
母親の弟で、俺と同じ吸血鬼である叔父。
叔父とはいえまだ若く、確か35だったはずだ。
同じ吸血鬼だが、俺とは考え方が違うことがどうしても受け入れられない。
それが一番の苦手な原因でもある。
『人間なんて餌と同じだよ。血が旨いなら誰でもいい。』
どうやって人から血を奪っているのかを尋ねた時、叔父ははっきりとそう言い切った。
…恐ろしいと感じた。
その言葉もだが、あの時の叔父の表情が。
その日から俺はあの人が苦手だ。
好みの血であれば誰彼構わない、その感覚が俺には理解できなかった。
「…クソッ!」
店内で小さく毒づくと、スマホをしまって買い物を再開した。
…仕方ない。どんなに嫌がってもあの人は必ず来る。
ここで気分を悪くしたって何も変わらないのだから、早く帰って悠さんとご飯を食べよう。
貴方に会えばこのモヤモヤした気持ちも消えるから。
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