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出会い2

「ここにはよく来るの?」 料理を待っている間、向かいの客が話し掛けてきた。 忙しいからか、いつもより時間が掛かりそうだ。 「そうですね。会社が近いんでよく利用しますよ。」 「そっかぁ。俺は知り合いにすすめられてきたけど、あんまりこういう店を利用しないから迷ってたよ。教えてくれて助かった。」 人好きする笑顔でそう言う男をまじまじと見る。 歳は30代前半だろうか。短い髪を明るく染め、耳にはピアス。 彫りの深い綺麗な顔。 …蒼牙をチャラくしたらこんな感じだろうか。 確かに定食屋を利用しているイメージはなく、普段はもっとオシャレな店に行っているのだろう。 「俺は『雛森 清司(ひなもり せいじ)』。君は?」 片手を差し出しながらそう言ってくる男に、俺も笑顔で返した。 「篠崎です。」 「…篠崎…下の名前は?」 まさかフルネームを聞かれるとは思ってなかったが、手を離しながら答える。 「悠です。」 「…悠くんだね。よろしく。」 雛森と名乗った男はニコッと笑う。その時、「お待たせしました。豚カツ定食です。」と料理が運ばれて来た。 「…悠くん、いい匂いだね。」 ボソッと呟いた雛森さんの声が聞こえる。 「でしょ。豚カツも絶品ですよ」 何となく先に食べるのも申し訳なく感じ、箸を付けずに待つ。「食べてね。」と勧めてくれるのを「えぇ。」と返し、ネクタイを弛めることで時間を潰したー。 「悠くんのお陰で美味しい昼飯が食べれたよ。ありがとね。」 会計を済ませ店を出る。食事をしながら色々と話した。 今日来た目的は自分の店の商品の仕入れだと言っていたから、まだ仕事が残っているのだろう。 「良かったです。じゃあ、仕事頑張って下さいね。ご一緒できて楽しかったです。」 そう言ってその場を後にしようとすると「あ、待って。」と引き留められてしまった。 「明日さ、悠くん暇?」 「明日ですか?」 「うん。良かったらメシ食いに行こうよ。定食じゃないヤツ。」 満面の笑顔と優しい口調。やっぱり少し蒼牙と似ている。 「ありがとうございます。…でもすみません。明日はちょっと用事で。」 明日は蒼牙がきっと来る。 「そっか、残念。じゃあ連絡先教えてよ。また一緒にメシ食いたいし。」 そう言って携帯を取り出すと「ね?」と雛森さんは笑った。 その笑顔はどこか逆らえないものがあって、俺はポケットから携帯を取り出したー。

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