70 / 347
出会い3
side 清司
仕事の取引相手から勧められた店で相席になった向かいの男。
サラリーマンの格好したソイツは「俺はいつもハンバーグか豚カツです。」と二ッと笑った。
初対面でも気さくに話しかけてくるソイツからは、ひどく魅力的な香りがした。
俺よりは若いな。スラリとした肢体にスーツ、サイドを撫で付けるようにセットした髪は真っ黒で柔らかそうだ。
整った顔立ちをしているが話しやすい雰囲気を纏っているし…何より色気がある。
久しぶりに良い獲物を見つけた気分だ。
『篠崎悠』と名乗ったこの男をどうやっていただこうか…。
「…悠くん、いい匂いだね。」
その身体から香る血の匂いに、つい本音が洩れた。
「でしょ。豚カツも絶品ですよ。」
俺の言葉の意味を理解していない彼は、そう返事をしたまま箸を取ろうとしない。
先に食べずに待とうとするその心遣いに好感を抱いた。
「食べてね。」と勧めてみるが、「えぇ。」と返事はしたものの食べようとしない。
…いいな、コイツ欲しくなってきた。
目の前でネクタイを弛める仕草が色っぽくて、吸血鬼として欲しいのか、男として欲しいのかよく解らなくなる。
弛んだ襟元から覗く首筋に視線を向けた。
…喰らいつきたい。
白い肌を見てそんなことを考えていると、僅かに見えるキスマークに気付いた。
恋人もちか…そう思うのと同時にイラッとした感情が襲う。
…何だこれ。
自分の感情がよく解らなくて困惑していると、料理が運ばれて来た。
気を紛らわすように、ハンバーグを食べる。
お勧めと言うだけあって、確かに美味い。
…でもそれよりも目の前の男の仕草や話し方、笑顔が気になっていた。
「明日さ、悠くん暇?」
店を出て、去ろうとする彼を引き留める。
「明日ですか?」
「うん。良かったらメシ食いに行こうよ。定食じゃないヤツ。」
明日は午後からは時間があるはずだ。
蒼牙の仕事している姿を見てきて欲しいと頼まれているし、ちょうど良いから彼を連れて行こうと思った。
「ありがとうございます。…でもすみません。明日はちょっと用事で。」
そう言って彼は少しはにかんだような表情を一瞬見せる。
…恋人か。
そう察知して、またイラッとした気持ちが沸き上がる。
「そっか、残念。じゃあ連絡先教えてよ。また一緒にメシ食いたいし。」
なら、アンタの気持ちを俺に向けさせてやるよ。
そう心で呟いたー。
ともだちにシェアしよう!