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動揺
「ところでお前、恋人できたろ。」
突然に話を切り替えられ、飲んでいたコーヒーを吹きそうになった。
「ゴホッ、…何を急に。」
「当たりだろ。前と全然雰囲気が違うよ、お前。…大人の男って感じだ。」
からかうような、喜ぶようなそんな口振りに戸惑う。
俺は清司さんのことが苦手だが、この人は昔から俺に構ってはからかってくる。
「どんな人だ?お前が本気になった相手は。」
身を乗り出して聞いてくる。
「…綺麗な人です。見た目だけじゃなくて、中身が。」
悠さんの良いところなら、いくらだって挙げられる。
男前な性格。
照れ屋なくせに言葉にしようと努力してくれる。なのに自分が行動にするときは大胆で。
綺麗な心、優しい性格、可愛い反応、お酒が入るとよく笑い色気が倍増する。
面倒見がよくて、意外と料理上手。
挙げ出したらきりがないくらい、俺はあの人に夢中だ。
「…俺には理解できないけどな。一人の人間に固執するなんて。」
そう呟く清司さんは「ま、頑張れよ。」と自分もコーヒーを飲み始めた。
まさかそんなことを言われるとは思ってなくて、少し拍子抜けする。
…もしかすると、ちゃんと話せばこの人の良いところにも気付けるのかもしれない。
しかし、そんな俺の考えとは裏腹に、清司さんの口からとんでもない発言が聞こえた。
「俺はやっぱり血が欲しいな。心なんかあったって邪魔なだけだ。あとはセックスが気持ちよけりゃ良い。」
…あぁ、やっぱり無理かも。この人を理解できるとは思えない。
内心で溜め息を吐く。
今日は悠さんに会っていないし、テンションが上がらない。
…明日は必ず会いに行こう。
そう決心する。
暫く会話をしていると、清司さんの携帯が震えた。
すぐさま画面を確認する様子を盗み見る。
その顔は今まで見たことがないような穏やかなもので。
こんな表情もするのかと少し驚く。
そして、次に聞いた言葉に心臓が冷えた気がした。
「来た来た、悠くんからの返事。」
清司さんの嬉しそうな声が余計に不安にさせる。
どうか、別人であってくれ。
祈るような気持ちで清司さんに声を掛けた。
「…今日会った人、『悠くん』って名前なんですか?」
…どうか違いますように。
「そ。篠崎悠くん、綺麗で美味しそうな子だったよ。」
息が詰まる。
指先が冷え震える。
俺は清司さんにこの動揺を悟られまいと必死で平常心を保ったー。
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