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待ち伏せ
side 清司
悠くんと出会ってから約一週間。
食事の誘いはことごとく断られている。
おそらく、いや絶対に蒼牙から『会うな』と釘を刺されているに違いない。
そんなことは予想していたことで、メールの誘いを断られたからといって気にしていない。
…むしろ、断り続けてくれたほうが好都合だ。
あの手の人間は義理堅い。断り続けていることに、そろそろ罪悪感を感じているはずだ。
今日は店も休みだし、タイミング的には良いだろう。
俺は着替えを済ませると、コートを片手に家を出た。
悠くんと出会った定食屋の近く、大通りの見えるカフェに入る。時計を確認すると昼が近い。
あの日、会社が近いと言っていた。
昼食なり休憩なり、外に出てどこかしらの店にいくはずだ。
そこを捕まえる。
ストーカーまがいの行為だが、これくらいのことをしないとアイツと繋がりを持つのは難しいだろう。
…あの大型犬が側にいるかぎり。
こんなことまでするのは初めてで、自分の気持ちがよく解らない。
昔から、何もしなくても女には不自由しなかったし、美味そうなヤツはこっちから少し声を掛ければすぐに手に入れることができた。
女でも男でもセックスが気持ち良ければそれでいいし、干渉されるのもするのもごめんだ。
…だが、アイツは少し違った。
会いたいと思う。
話をしてみたいと思う。
アイツの事を知りたい、俺の事を知って欲しい…
そんな思いに駆られる。
向かい合ってみれば、この気持ちを理解することができるだろうか…。
そう考えている時だった。
…来た。
スーツ姿の悠くんが歩いてくる。
その姿を観察する。
俺よりは低いが平均よりは高いであろう身長。
細く引き締まった体つき。
一見キツそうな印象を受ける目鼻立ちだが、笑うと目尻が下がり柔らかい表情になる。
隣には同僚だろうか、親しげに話す男が並んでいて、二人でコンビニに入っていった。
俺は会計を済ませカフェを出ると、二人の後を追いかけ自動ドアをくぐった。
口元に笑みが浮かぶのが自分でも分かる。
今日は絶対に逃がさない…そんな思いに突き動かされていたー。
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