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失恋と余興

「悠くんさ、蒼牙に何言われたか知らないけど警戒しすぎ。」 笑いながらそう言うと、「そんなことはないですよ。」と苦笑する。 …ホント、思うように返事をしてくれて助かるよ。 ゴメンね悠くん。蒼牙を呼ぶつもりはないから。 「そう?じゃあ蒼牙を呼ぶのは無しね。」 「え、えぇ!?」 俺に言いくるめられたことに気付いたのか、悠くんはすっとんきょうな声を上げた。 …面白い。 「大丈夫。ただ一緒に飯を食いたいだけだから。何にもしないから安心して。蒼牙にも俺と会うって言えば良いよ。」 そう言って俺は適当にパンを掴むと、「また後でね。」とレジに向かった。 少しだけ振り返ってみると、こっちを見ていた悠くんと目が合う。 慌てて会釈してくる彼に笑いが溢れた。 蒼牙のものだと分かっている。 でも、やっぱり欲しいと感じた。 血も欲しいが、悠くん自身を手に入れたい。 肩に触れた男に嫉妬するほどにアイツに執着しているなんて…。 自覚した。 俺は悠くんに好意を抱いている。 自覚したと同時に失恋なわけだが… このまま何もせずに終わらせるつもりはない。 蒼牙と『卑怯な手は使わないでやるよ』と約束した。 だから正々堂々と口説いてこの気持ちを伝えてやる。 初めて人を好きになったこの感覚を、もう少しくらい楽しんでも良いだろう? 俺は一人そう考えながら、夜までの時間を潰していったー。

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