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口説く
「悠くんはさ、蒼牙のどこが良いの?」
突然に切り出された話題に、持っていたピザを落としそうになる。
雛森さんお気に入りだというここの料理は本当に美味しくて、素直に堪能していた。
だから、いきなりの話題の変化に心の準備ができていなかった。
「な、にを急に、」
「だって、付き合ってるだろ?友人としてじゃなく、恋人として。」
「…ッ…!」
まさか蒼牙と付き合っていることを知られていたとは思わず、一気に顔が赤く染まっていくのが自分でも分かった。
「知ってたんですか…。」
そう溢すと、少し困ったように笑いながら「まあね。」と雛森さんは言った。
「…蒼牙にね、スゲー牽制されてるんだよ。」
「牽制?」
「うん。…悠くんと初めて会った日にね。俺が君のこと『美味しそう』って話したんだよ。そしたら、無茶苦茶警戒された。」
からからと笑いながら、「アイツ、立派な番犬になったね。」と続ける。
もうどこから突っ込めば良いんだ…。
「あの、なんか色々すみません…。」
何に謝っているのか自分でもよく解らないが、申し訳ない気持ちは確かにあって。
俺が頭を下げると雛森さんはクスクスと笑いながら「謝る意味が解らないけど。」と溢した。
「それで、ここからが本題なんだけど。」
そう言われて、下げていた頭を上げて雛森さんを見る。
その顔は笑っていたが、目は真剣で…俺も身体を真っ直ぐに正して「はい。」と見つめ返した。
もしかすると別れろと言われるのかもしれない。男同士、反対されてもおかしくはないのだから。
…でも、例え反対されても俺は別れられない。
そんな事を考えていると、雛森さんがゆっくりと口を開いた。
「俺にしない?」
「…はい?」
予想していた言葉とは違っていて、言われた意味が分からず聞き返す。
「だから、俺と付き合ってみない?」
言葉は軽いがその目は真剣で、冗談を言っているようには思えなかった。
『あの人は貴方に心惹かれてる』
蒼牙の言葉が過った。
あの時はそんなことないだろうと、勘違いじゃないかと返したが…
まさか、本当だった?
…さっきのエスコート云々はこの人の冗談じゃなかったのか?
「…俺さ、はっきり言ってかなり酷い男なのよ。」
「…え、」
頭が回らず、ちゃんとした言葉が出てこない。
固まってしまった俺に柔らかく微笑むと、雛森さんは椅子に寄り掛かりながら話し始めたー。
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