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口説く3
side 清司
「君が好きだ。」
そうはっきりと伝えると、大きく開かれた瞳が困ったように揺れる。
君が蒼牙を裏切るわけがないと解っていて、敢えて思いを告げた。
困らせたいわけじゃない。
ただ、知って欲しい。
「…ありがとうございます。」
真っ直ぐに俺を見ていた彼は、そう言うとゆっくりと頭を下げた。
「雛森さんの気持ち、嬉しいです。…だけどごめんなさい。その気持ちに応えることはできません。」
飾らない丁寧な言葉。ちゃんと受け止めて、真剣に考えてくれたのだと分かる。
「うん、だろうね。」
俺がそう言うと、悠くんはちょっと泣きそうな顔になった。
「…でもさ、一度くらい俺と寝てみない?多分、蒼牙より上手いよ。」
からかうように言うと、悠くんは真っ赤になって首を振った。
今まで狙った人間は、同じセリフを投げ掛けると皆かかってきた。
それが悠くんには通じない。
その事実が残念でもあり、嬉しくもあった。
「一つ聞いて良い?」
真剣な口調でそう問うと、「なんでしょうか?」と応える。
「もし、蒼牙より先に俺に出会ってたら…君は俺のものになっていたと思う?」
確認しても意味のない『もしも』の話。
それでも知りたかった。
悠くんは暫く真剣に考えると、ゆっくりと横に首を振った。
「…なっていないと思います。俺は蒼牙が良いんです。確かに顔は好きです。でも、アイツと付き合っているのはそんなことが理由じゃない。…蒼牙の一生懸命なとこ、可愛い性格、態度…それらに惚れたんです。」
悠くんの瞳が、蒼牙の事を話すときには照れたような…でも嬉しそうなものになる。
「雛森さんは素敵な人だと思います。もしかしたら、本当に酷いヤツなのかもしれないけど…俺には紳士的に接してくれてるじゃないですか。」
…そんなことはないよ。
心の中ではもう何度も君に牙をたてている。
「それでも、俺は蒼牙じゃないとダメなんです。…だから、本当にごめんなさい、そしてありがとうございます。」
「…分かったよ。」
深い溜め息が出た。
振られると分かっていても、やっぱりけっこうなダメージだな…。
「…ちゃんと受け止めてくれてありがとう。」
俺がそう言うと悠くんは優しく笑った。
…綺麗だな、君は。
俺には綺麗すぎて釣り合わないのかもしれない。
そんなことを考えていると、向こうから真面目な顔した番犬が近づいてくるのに気付いたー。
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