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上書き

side 蒼牙 「行きますよ、悠さん。」 腕の中の悠さんを押すようにして歩き始める。 「ちょっと待て、会計…!」 律義に支払いをしようとする悠さんに微笑み、「そんなの、清司さんがしてくれます。」と告げ、清司さんを睨む。 「はいはい。悠くん気にしないで帰って良いよ。…ごちそうさま。」 最後はニヤッと笑う清司さんに腹が立つ。 「睨むなよ、ちょっとキスしたくらいで。じゃあね悠くん。…あんまり泣かされないようにね。」 「誰のせいだ!」 悠さんの手を引きながら歩く。周りの注目を浴びていたが、気にならなかった。 「蒼牙、待てって。」 店の扉を開いたところで悠さんが足を止めた。 「…なんですか?」 手を離さずに振り返ると、困ったように笑う恋人がいて。 「…ゴメンな。それと迎えに来てくれてありがとう。」 そう伝えてくる悠さんが愛しくて、レジカウンターの裏へあった店内からは死角になる場所へ引っ張り込んだ。 「蒼牙、…ン、」 壁に押し付けると同時に悠さんの口を塞ぐ。 繋いだままの手は指を絡め、顔の横に縫い付ける。 「ンッ…蒼牙、」 ゆっくりと口を離し、唇を舐めると悠さんがクスッと笑った。 「…雛森さんの感触、消えた。」 視線を絡めながらそんなことを言われ、さっきのキスを思い出して渋い顔になってしまう。 「…まだ上書きさせて下さい。」 そう言って、もう一度口付ける。 「…ン、ハァ…ここ、人に見つかるから…ン、」 舌を絡める深い口付けに変えていくと、悠さんがキスの合間に囁く。 その声に煽られ熱の篭った瞳で見つめると、同じように見つめ返してくれた。 「悠さん…家まで我慢できそうにないです。」 耳元に唇を落とし囁くと、「…俺もだよ。」と小さな声が聞こえたー。

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