105 / 347

朝2

シャワーを浴びた蒼牙の準備を待ち部屋を出る。 鍵を締めていると、隣の部屋から同じように一人の男性が出てきた。 視線を感じ何気なくそちらを見ると、慌てたように顔を反らした。 …なんだ? 少し不思議に思いながらも「行こう。」と蒼牙に声を掛けた。 「……。」 「蒼牙?」 返事もせず立ち尽くす蒼牙を振り返る。 蒼牙の視線は隣の男性に向かっていて、何を思ったのかおもむろに男性に近づいていった。 そして逃げ腰になる相手の耳元に口を寄せ何かを囁いた。 途端に真っ赤になる男性から体を離し、笑いを堪えた表情で戻ってきて俺の肩に手を回す。 「お待たせ、行こう。」 「え、いや、知り合いか?」 真っ赤になったままの男性を指差し聞くと「いいや、知らない人。」と笑う。 「でもせっかくだしね。サービスしてあげようか。」 「は?…ンッ!?」 そう言うと蒼牙は俺の肩を抱いたまま壁に押し付けると、顎を掴んで上向かせ口付けてきた。 「ン、…ハッ…蒼牙、人が見て…ン!」 慌てて押し返そうとしたが、その手も捕まれ握られる。 チュッ…チュクッ、 舌まで絡められ、訳が分からないまま翻弄された。 チュッ… 音をたてて唇を離すと、蒼牙は「急にゴメンね。」と綺麗に笑った。 「な、なんで…」 他人に見られた恥ずかしさもあったが、それよりも訳が分からず口元を押さえたまま呟いた。 「ん?まだ足りない?」 ニヤッと笑って口を寄せてくる蒼牙の顔を押し返し、「もう充分だから!」と腕の中から逃げ出した。 「…残念、じゃ行こうか。」 クスクスと笑いながらそう言うと、蒼牙は俺の腕を掴んで歩き出す。 「バイバイ。聞き耳たてるのは良いけど、この人をオカズにしたらダメだよ。」 後ろを振り返り手を振る蒼牙の言葉に、血の気が引いた。 …まさか、 「そ、蒼牙。」 「んー?」 「まさか、さっきの客…聞いてたのか…?」 違うと言ってくれ。 どうか勘違いであってくれ。 昨夜の情事の声を聞かれていたなんて…恥ずかしすぎる。 「みたいだね。あの視線は確実でしょ。」 「…ッ…!!」 俺の願いも虚しく、蒼牙は愉しそうに「だから見せつけたんだよ。貴方は俺のものだって。」と続けた。 言葉を失った俺とは反対に綺麗に笑う蒼牙。 「…ッ…お前、ホントに性格悪すぎる!」 …早く犬に戻ってくれ。 そう強く願ったのは初めてだった…。

ともだちにシェアしよう!