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優先事項
『今大丈夫か?』
少し不機嫌そうに聞こえる悠さんの声。
やっぱりこの間のことを怒ってるんだろうか。
「ちょうど休憩時間ですから大丈夫です。」
そう答えると今度は慌てたような声に変わる。
『え、そっか、日曜関係ないんだな。悪い!掛け直すよ。』
「大丈夫ですって。まだ入ったばかりだし。」
悠さんからの電話を切るなんてするわけない。
笑いながら伝えると、悪いな早く切るから、と申し訳なさそうな声。感情が声に表れやすいんだな…そんな事までが愛しく感じる。
重症だな、俺。
『今日、何時に仕事が上がる?』
「今日ですか?7時半には交代ですね。」
時計とシフト表を確認しながら答える。
『会えるか?』
……!
まさかの誘いに一瞬言葉が詰まる。
『都合悪いなら』
「大丈夫です!会えます、会いたいです!」
悠さんの声に被せて答える。
そんなの大丈夫に決まってる!
『そっか。じゃあ、お前のホテルの前で待ってるよ。』
「はい。…ありがとうございます。」
色んな思いが込み上げてそうお礼を言うと、電話の向こうで笑っている声が聞こえる。
『お礼の意味がわかんねーし。じゃあ、また後でな。仕事頑張れよ。』
そう言うと、プツッと電話を切ってしまう。
沸々と喜びが沸き上がってくる。
会える。
怒っても嫌ってもなかった。
さっきとは違う、安心と喜びが混ざった溜め息が口を吐く。
「秋山くん?さっき私には用事があるって言ったじゃない。酷くない?」
そう声を掛けられ振り返ると、明らかに不機嫌顔な井上さんが立っていた。
ゴメンね、忘れてた。
「俺の大事な人からだから。こっちが優先。」
ニッコリと笑顔で言うと、クシャッと顔を歪める。
「何それ、意味分かんないし。最低。」
「うん。いいよそれで。」
井上さんの悪態も気にならない。二日振りの笑顔を向け、「じゃあね。」と声を掛け部屋を出る。
足取り軽くフロアに入った。
客足が少し止まり、店内は落ち着いていた。
あと三時間。
早く終われ。
仕事が早く終わって欲しいなんて…初めて感じた。
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