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理由
side 悠
取引先との打ち合わせが終わりもう帰ろうかと思っていた矢先、部長に捕まった。
「お前最近色気が出てきたよな。ついに彼女でもできたか~?」
珍しく部長も早く帰れるらしく、それならば早く家に帰ってくださいよ…と心の中で呟く。
曖昧に返事をすると余計に面倒くさいことになりそうだ。
「色気は知らないですけど…恋人ならいますよ。」
『彼女』ではないけど。
さっさと帰りたい。明日は休みだし、蒼牙とゆっくりと過ごすつもりだ。
恋人になってからほぼ毎日会うようになり、『秋山くん』と呼ぶ度に何か言いたそうにしていることに気がついたのは一週間ほど経ってからだった。
『もしかして、名前で呼んで欲しいのか?』
カフェでそう言っていたことを思い出し直球で尋ねると、至極嬉しそうに『はい!』と返事をしてきた。
可愛くて笑ってしまったが、呼び名を急に変えるのは気恥ずかしくて…自然に呼べるようになるまでに時間が掛かった。
そんなやり取りを思い出していると、いつの間にか話は進み、後輩社員も連れて食事に行くことになっていた。
別に急ぐわけではないが、早く帰りたかったんだけどな…。
そして何故か連れられてきたのは蒼牙の勤めるレストランで。
サラリーマンらしく飲み屋じゃないのかよ!…とは言えず、大人しく部長の後に続いた。
店の奥から現れ、嬉しそうに微笑む蒼牙にドキッとした。
少し長めの後ろ髪をくぐり、ギャルソンの格好もバカほど似合っている。大きな手で優雅にメニューを渡してきて、溶けそうに甘い笑顔と声で接客する。
「スゴいイケメンな兄ちゃんだったな。」
「ああいう人って彼女も綺麗なんでしょうね~!」
二人の言葉にハハハ…と笑うしかない。綺麗じゃなくて悪かったな。
「いいな~遊び放題でしょうね。」
アイツの事何も知らないくせに想像だけでそんなことを言う後輩にムカッとするも、それを言うわけにもいかず。
一通り好き勝手言っていたが、ようやく違う話題になり安心していると
「で、篠崎さんの彼女さんってどんな人ですか~?」
話題を自分に振られて困ってしまう。
「…別に普通だよ。そう言えば部長の奥様も綺麗な方ですよね。」
話題を部長に反らし、チラリと蒼牙を見やる。
さっきから何度も声を掛けられているように思えるんだが…気のせいなんかじゃないな。
……ムカムカする。
その理由は解りきっていた。
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