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嫉妬と不安
「すいません、ちょっと席を外します。」
携帯を片手に席を立つと、蒼牙に合図を送って奥にあるレストルームに向かった。
クソッ…こんなに自分が女々しいなんて思ってもみなかった。
…解ってる。
この感情は『嫉妬』だ。
蒼牙が他の客相手にあの笑顔を向けていること。それを嬉しそうに受けている女性達。
『彼女も綺麗なんでしょうね~。』
何気ない後輩の一言が胸に刺さった。
…女どころか男だよ。
ハァ…。
溜め息が出た。別に女になりたいわけじゃない。でも、不安になる。
俺でも良いのだろうか、もっと相応しい女性がいるんじゃないだろうか、そんなことを考えてしまう自分にイライラする。
暫くすると控え目なノックの後に蒼牙が入ってきた。
その姿を確認すると、俺はたまらずに引き寄せて抱き締めていた。
ゴメンな蒼牙。
きっと俺から手放してなんかやれない。
抱き締める腕に力を込める。
…こんなに人を愛しく感じるのは初めてだった。
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