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誘惑
side 悠
「蒼牙、風呂入って来いよ。」
暫く抱き締め合っていた俺達は、ようやく身体を離すとお互いの顔を見て笑った。
蒼牙は恥ずかしそうに目元を拭い、「はい。お借りします。」と言って立ち上がった。
風呂場からお湯の流れる音がする。
あぁ、新しい下着を出しといてやらないと…アイツ着替えないじゃないか。
「悠さん、お風呂ありがとうございました。」
頭を拭きながら出てきた蒼牙は、ベッドで携帯を操作していた俺に近づいてきた。
寝転がったまま見上げると、俺を見て少し困ったように笑いベッドの脇に座ろうとする。
…おい、待て。
人が何のために風呂に入れさせたと思ってやがる。
だいたい今日は、そのつもりでお前を誘ったんだ。それをお前が吸血鬼がどうとか話し出すから…まぁ大事な話だったわけだが…
とにかく、
もしかしてこの先も俺が動かないといけないのか?
いや、別に誘うのが嫌なわけじゃないが…
…仕方ないな。
「蒼牙。」
名前を呼ぶと「はい?」と返事をして顔を上げる蒼牙に、俺は指で『来い』と合図を送る。
近付いてきた蒼牙の腕を引っ張りベッドに押し倒すと、
「…ほんと、手の掛かるヤツ。」
と呟きながら、蒼牙の唇に自分のそれを重ねた。
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