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限界
「面白かったですね、映画。」
隣を歩く悠さんを見ながら声を掛けた。
話題作だけあって話の展開が予想外で、あのシーンはどうだった…と会話が盛り上がる。
まだ時間があるし、もう少し見て回るか…と話していると、後ろから声を掛けられた。
「やっぱり篠崎さんだ。」
振り返るとセミロングの髪をフワリとカールさせた、可愛らしい女性が立っていた。
「あぁ吉川さん。吉川さんも買い物?」
悠さんは笑顔でそう言うと、吉川と呼ばれた女性に近づき話を始めた。
「えぇ、偶然ですね。篠崎さん、スーツじゃないから違うかもって思ったけど、やっぱりそうだった。」
ニコニコと嬉しそうな表情。
少し照れたように笑い、手に持っていたバックを胸に抱き締める。
なんて分かりやすいんだろう。
…彼女は悠さんに好意を抱いてる。
「ごめんなさい。お友達とご一緒なんですね。」
少し会話をした後で俺の方に笑顔を向けると軽く会釈をしてくる。
媚びたりしない可愛らしい笑顔。
きっと会社でもモテてるだろう。
「私たち、これからお茶でもしようかって言ってたんですけど。よかったらお二人もいかがですか?」
隣に立つ連れの女性が誘ってくる。
…冗談じゃない。
せっかくの悠さんとの時間、こんなことで無駄にしたくない。
でも悠さんの同僚だし、無下にもできないのが事実で。
「…俺は良いですよ。」
悠さんを見つめ伝えた。一瞬驚いたような表情を見せた悠さんは、フッと笑うと女性に向き直りハッキリと言った。
「いや、俺達はもう帰るから。ゴメンね。」
…え。
「そうなんですね。ごめんなさい、引き留めちゃって。」
吉川さんは残念そうに言うと、「ほら、行こう。」と友達を促した。
「また、会社でね。」
悠さんはそう言って手をあげると、俺に向き直り「ほら、帰るぞ。」と腕を小突いてきた。
「…お前さ、変な気を利かせるなよ。」
帰りの電車の中、苦笑混じりに悠さんが呟く。
「…すみません。」
「別に謝らなくて良いよ。ありがとうな。」
悠さんには俺の考えていることなんてお見通しで。きっとこれからも敵わないんだろうと思う。
…だったら、いっそのこと甘えてしまおう。
優しい貴方なら、きっと笑って受け入れてくれるから。
「…悠さん。」
「ん~?」
「…俺、もう限界です。」
そう言って頭を肩の上に乗せた俺に「…仕方ないな。」と貴方は笑ってくれた。
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