135 / 347

内藤くんと蒼牙(番外編)

俺の職場にはめちゃくちゃイケメンなヤツがいる。 同期であるそのイケメンこと秋山蒼牙は見た目の良さを自慢することもなく、どちらかというと大人しく控え目なヤツだ。 丁寧な口調と柔らかい雰囲気。人当たりもよく、小さなことにも手を抜かない。 先輩から聞いた話、蒼牙が働き始めてから客足が増え、店の売上は上々。 そんな蒼牙と同期で入った俺は、自然と仲もよくなり今では友人だと思っている。 忙しい一日が終わり、今日はシフトが重なっている蒼牙を誘って飲みに行こうかと考えた。 スタッフルームで待っていると、「じゃあお先に失礼します。」と蒼牙が同僚達に声を掛けながら戻ってきた。 「あれ、内藤くんまだ帰ってなかったんだね。」 俺を見るなりニコリと笑いながらそう言う。 おぉ…俺が女ならメロメロになるな、その笑顔。 「おぅ。あのさ、蒼牙今日ヒマ?飲みに行かね?」 「今日?…急だね。」 「ダメか?なら別の日でもいいけど。」 蒼牙は少し考えると、「大丈夫。でもちょっと電話させてね。」と言ってスマホを取り出した。 スマホを肩で挟みながら着替え始める蒼牙を、何となく後ろから見る。 …イケメンは後ろ姿も完璧だな。 そんな事を考えて見つめていたが、あるものが目に入ってきてドキッとした。 カッターシャツを脱いだ蒼牙の背中に、明らかな爪痕。 かなりはっきりと残っているそれは、一つじゃなく何ヵ所もあった。 …この間はキスマークも首筋に付いてたよな。 恋人に付けられたのであろうそれは、数ヶ月前までは見たことがなかった。 「…あ、悠さん。お疲れさまです。」 相手が電話に出たのか、蒼牙は嬉しそうに話始めた。 声が優しい。 あぁ『悠さん』って名前なのか、恋人。 そんなことを考えながら、蒼牙が電話を切るのを待った。 可愛い名前だな。 コイツの恋人ならきっと美人なんだろうな。 …いや、意外と可愛い系か? でもあんな情熱的な痕を残すような女だろ、やっぱり色っぽいお姉さま系か? 人の恋人がどんな人物かなんてどうでも良いけど。 でもこうも頻繁に情事の痕を見せられては気にもなるもので。 「…じゃあ、終わったら行きますね。あ、鍵はちゃんと掛けといて下さいね。…はい、悠さんも気を付けて。」 電話が終わった蒼牙が振り向きながら「大丈夫、行こうか。」と笑う。 よし、今日はコイツの彼女の話を聞いてやる。 そう心に決め、俺は立ち上がったー。

ともだちにシェアしよう!