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無自覚と警戒心(リク作品)
side 悠
朝の通勤ラッシュ、電車の中は身動きがとれないほどの箱詰め状態で。
毎朝繰り広げられるこの環境にもいつしか慣れ、今ではどこに立てば楽かも把握していた。
今日もいつもと変わらない満員電車に揺られながら出勤している。
扉の前を陣取り外の景色を眺める。
何もかもいつもと同じはずだった。
その声を聞くまでは。
「…や!」
か細い、悲痛な声。
あまりにも小さくて聞き逃してしまいそうなその声は、俺の斜め後ろから聞こえた。
視線を向けると身体の小さな女性が泣きそうな顔をして震えている。
怯えて青ざめた表情から痴漢に合っていることを察知した。
瞬時に回りを見回すも、痴漢の姿が判るわけでもなく、捕まえようにもその手を掴むことができない。
俺は何とか身体を動かし女性の肩を掴み声を掛けた。
「おはよう、佐山さん。」
「…え?」
女性は驚きと怯えの混ざった表情で顔を上げる。
その肩を強く引き、無理矢理俺の側に寄せると「ちょっとだけ我慢してね」と囁き扉と体で挟むようにした。
「あ、ありがとうございます…。」
泣きそうな顔で感謝の気持ちを伝える女性に「ん、大丈夫?」と訊ねた。
「はい。」
真っ赤になりながら返事をする女性に「駅まで我慢してね。」と伝え、彼女の最寄り駅までその態勢を維持したー。
数日後久しぶりに蒼牙と出掛けることになり、休日で人混みの激しい駅を利用した。
「凄い人ですね。」とホームで呟く蒼牙に「そうだな。」と返し電車の来る方向を見ていた。
その時「あの!」と小さな声で話し掛けられた。
振り向くとそれは先日助けた女性で。
「先日は助けて頂いてありがとうございました。」
はにかみながら頭を下げる女性に笑って応えた。
「いえ、大変だったね」
そう言うと、女性は照れたように笑う。
「本当に助かりました。あの、良かったらお礼をさせてもらえませんか?」
「気にしないで。連れもいるし。」
そう言って蒼牙を指差す。
その後いくつか言葉を交わすと電車が到着し、「じゃあ、気を付けてね。」と乗り込み別れた。
女性が寂しそうな表情だったことに、俺は気付かなかった。
「さっきの女性は?」
電車の中で蒼牙が聞いてくる。
「ん?あぁ、この間な…」
俺は先日あった出来事を蒼牙に話した。
静かに話を聞いていた蒼牙は「そうだったんですね。」と笑ったが、その笑顔はどこかおかしく感じたー。
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