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無自覚と警戒心4(※暴力表現有)
「な、何だね君は、いきなり!私が何を…イッ!」
ギリッ…!
喚く男の手首に力を込める。
このままへし折ってやろうか…。
黙ったまま冷ややかに見つめると、「な、な゛…!」とどんどん顔色が悪くなっていく。
捻り上げていた手を下げ、男の腕を掴み悠さんに微笑む。
「悠、次で降りるよ。」
俺の言葉に悠さんは「え、あ、あぁ。」と返すと苦笑した。
「ありがとう、蒼牙」
小さく呟くその姿に胸が痛む。
…クソッ!
この変態野郎、絶対許さない…!
電車が速度を落としていく。
周りの視線を浴びながら、俺は男の腕を引っ張りホームに降り立った。
「は、離せ!私が何をしたと言うんだ!」
ホームで喚く男に乗客達が何事かと視線を向ける。
…煩い。
俺は男の胸ぐらを掴みグッと持ち上げると、小さな声で耳元に囁く。
「あんまり煩いと、このまま投げ込むよ。…それともここで死にたい?」
静かに告げるとピタリと喚くのを止め青ざめていく男。
そのままホームのイスに投げ捨てるようにして座らせた。
「悠、大丈夫?気持ち悪くない?」
側で心配そうに見ていた悠さんに近寄り頬を撫でた。
まだ少し顔色が悪い。
「ん、大丈夫…ソイツ、今朝の女性を襲った痴漢だった。」
小さな声で話し始める悠さんの身体が僅かに震えていた。
全てを聞き終わり、溜め息を吐く悠さんをギュッと抱き締める。
安心させるように背中を撫でこめかみに口付けると、俺は男に向き直った。
「…どうせ常習犯だろ。証拠がないと突き出しても無駄だし、悠に嫌な思いもさせたくない。」
独り言のように呟きながら男に近付く。
途端にガタつく中年男に胸くそが悪くなる。
こんなヤツが悠さんに触れたかと思うと、怒りで頭がどうにかなりそうだ。
俺は男の上着を掴み内ポケットから財布を取り出した。
「な、何を!金か?金ならやるから…!」
「黙れ。」
情けない声を出す男に一言告げ、中から免許証と名刺を取り出した。
スマホで氏名、住所、社名など全てを撮影するとまた財布に戻し、男に投げつけた。
「この人に近付いてみろ、二度と社会復帰できなくさせてやる。」
ガタガタと震える男に顎で「行け」と示す。
立ち上がり逃げるように横を通り過ぎようとした男に「あ、」と小さく声を発する。
途端に男はビクッと止まった。
「…忘れ物」
そう言うと俺は膝を振り上げ、男の鳩尾を蹴り上げたー。
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