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Dog or Wolf(リク作品)
side 蒼牙
今日はいつもより仕事に熱が入る。
数日前、『蒼牙が仕事をしているところをちゃんと見てみたい』と言った悠さん。
休日の今日、俺の勤めるホテルのレストランに食事に来ると約束をした。
ただ、どういう訳か内藤くんも一緒に来るという。
いったい、いつの間に連絡をとったのか…後で内藤くんを問い詰めないと。
時計を確認するともうすぐ7時。一番景色の良い予約席を勝手にキープして、悠さんが来店するのを待つ。
…ここに内藤くんまで座るのか。
そう考えると少し、いやかなり面白くない。
チリリン…!
来客を告げるベルの音がして、入口に目を向けた。
そこには嬉しそうに笑っている悠さんと、面白がっているのがわかる内藤くんが立っていた。
「いらっしゃいませ。」
営業スマイルではない微笑みを浮かべ、悠さんを迎える。
「お疲れさま、蒼牙。」
悠さんが笑いながらそう言ってくれるから、今日の忙しさで疲れた身体が一気に良くなってしまった。
「うっわ~…何、その笑顔。」
内藤くんが悠さんの隣で呆れたように呟くが、敢えて無視した。
「お席を用意してございます。どうぞこちらへ…」
「え、俺は無視!?」
後ろで嘆く内藤くんはほっといて、俺はキープしてあった席に悠さんを案内した。
イスを引き、悠さんを座らせると「ごめんな、本当に来て。」と少し申し訳なさそうな表情で悠さんが言う。
その姿にクスクスと笑いが溢れた。
「何で?俺は悠さんが来てくれて嬉しいです。」
そう言ってメニューを渡す。
「今日はゆっくりとお過ごし下さいね。」
軽く一礼をして微笑むと、悠さんは照れたように笑った。
…可愛い。
内藤くんがいなかったら今すぐキスするのに…
悠さんの向かいに座る内藤くんにチラリと視線を送る。受け取ったメニューから自分の料理を選んでいて、俺が視線を向けていることに気付いていない。
「悠さん、後で家に行っても良いですか?」
座っている悠さんの耳元に口を寄せ小さな声で確認した。
ついでに今日は下ろしている横髪に軽く唇で触れる。
「…ッ…良いよ。お前が終わるまで待ってるから、一緒に帰ろう?」
すぐに身体を離した俺を見上げると、悠さんはそう言って綺麗に笑った。
「はい。」
嬉しくて顔が綻ぶ。
「よし、俺はこれにする!」
空気を無視した内藤くんの声に、悠さんが「俺も同じもので。」と苦笑した。
「かしこまりました。」
そう言って微笑み悠さんを見つめる。
…駄目だ、やっぱり少し触れたい。
「あぁ、髪に何か付いていますよ…」
俺がそう言って悠さんに手を伸ばすと「え?」と自分で取ろうとする。
その手を柔らかく掴み、「じっとして…」と囁くと、悠さんの横髪に手を差し込みゴミを取る振りをした。
そのまま形の良い耳に指を這わすと、悠さんは「ンッ…」と首を竦める。
耳に心地よいその声にフッと笑い、耳朶を軽く摘まんでから手を離した。
「はい、取れました。」
そう言って微笑むと、悠さんは「あ、ありがとう…」と顔を赤くした。
「………」
向かいで見ていた内藤くんが黙り込んでいる。
「…後で話があるから。」
内藤くんの肩に手を置きニッコリと笑うと、「は、はい!」と返事が返ってきた。
「それでは少々お待ち下さい。」
丁寧にお辞儀をして悠さんを見つめると、まだ顔を赤くしていて。
…ホント、可愛いな。
少し触れれば、もっと…と求めてしまう。
でも今は我慢しないと。
触れられないことに心の中で溜め息を吐き、俺は厨房に向かったー。
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