148 / 347

Dog or Wolf(リク作品)

side 蒼牙 今日はいつもより仕事に熱が入る。 数日前、『蒼牙が仕事をしているところをちゃんと見てみたい』と言った悠さん。 休日の今日、俺の勤めるホテルのレストランに食事に来ると約束をした。 ただ、どういう訳か内藤くんも一緒に来るという。 いったい、いつの間に連絡をとったのか…後で内藤くんを問い詰めないと。 時計を確認するともうすぐ7時。一番景色の良い予約席を勝手にキープして、悠さんが来店するのを待つ。 …ここに内藤くんまで座るのか。 そう考えると少し、いやかなり面白くない。 チリリン…! 来客を告げるベルの音がして、入口に目を向けた。 そこには嬉しそうに笑っている悠さんと、面白がっているのがわかる内藤くんが立っていた。 「いらっしゃいませ。」 営業スマイルではない微笑みを浮かべ、悠さんを迎える。 「お疲れさま、蒼牙。」 悠さんが笑いながらそう言ってくれるから、今日の忙しさで疲れた身体が一気に良くなってしまった。 「うっわ~…何、その笑顔。」 内藤くんが悠さんの隣で呆れたように呟くが、敢えて無視した。 「お席を用意してございます。どうぞこちらへ…」 「え、俺は無視!?」 後ろで嘆く内藤くんはほっといて、俺はキープしてあった席に悠さんを案内した。 イスを引き、悠さんを座らせると「ごめんな、本当に来て。」と少し申し訳なさそうな表情で悠さんが言う。 その姿にクスクスと笑いが溢れた。 「何で?俺は悠さんが来てくれて嬉しいです。」 そう言ってメニューを渡す。 「今日はゆっくりとお過ごし下さいね。」 軽く一礼をして微笑むと、悠さんは照れたように笑った。 …可愛い。 内藤くんがいなかったら今すぐキスするのに… 悠さんの向かいに座る内藤くんにチラリと視線を送る。受け取ったメニューから自分の料理を選んでいて、俺が視線を向けていることに気付いていない。 「悠さん、後で家に行っても良いですか?」 座っている悠さんの耳元に口を寄せ小さな声で確認した。 ついでに今日は下ろしている横髪に軽く唇で触れる。 「…ッ…良いよ。お前が終わるまで待ってるから、一緒に帰ろう?」 すぐに身体を離した俺を見上げると、悠さんはそう言って綺麗に笑った。 「はい。」 嬉しくて顔が綻ぶ。 「よし、俺はこれにする!」 空気を無視した内藤くんの声に、悠さんが「俺も同じもので。」と苦笑した。 「かしこまりました。」 そう言って微笑み悠さんを見つめる。 …駄目だ、やっぱり少し触れたい。 「あぁ、髪に何か付いていますよ…」 俺がそう言って悠さんに手を伸ばすと「え?」と自分で取ろうとする。 その手を柔らかく掴み、「じっとして…」と囁くと、悠さんの横髪に手を差し込みゴミを取る振りをした。 そのまま形の良い耳に指を這わすと、悠さんは「ンッ…」と首を竦める。 耳に心地よいその声にフッと笑い、耳朶を軽く摘まんでから手を離した。 「はい、取れました。」 そう言って微笑むと、悠さんは「あ、ありがとう…」と顔を赤くした。 「………」 向かいで見ていた内藤くんが黙り込んでいる。 「…後で話があるから。」 内藤くんの肩に手を置きニッコリと笑うと、「は、はい!」と返事が返ってきた。 「それでは少々お待ち下さい。」 丁寧にお辞儀をして悠さんを見つめると、まだ顔を赤くしていて。 …ホント、可愛いな。 少し触れれば、もっと…と求めてしまう。 でも今は我慢しないと。 触れられないことに心の中で溜め息を吐き、俺は厨房に向かったー。

ともだちにシェアしよう!