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桜と想い2
公園の中を歩く。周りは花見客で賑わっていて、思うように歩けない。回り道になるなと思いながらも出口に迂回しながら進むと、携帯が着信を告げた。画面を確認し顔が緩む。
どうしてコイツはこうもタイミングが良いのか。
「はい。」
『もしもし、悠さん。お疲れ様です。』
電話の向こうの蒼牙の声が耳に心地好い。
『すみません、まだ花見の途中ですよね。』
何となくどうして電話してきたのかを察しながらも、蒼牙の言葉の続きを待つ。
『悠さん飲んでるでしょ?俺、迎えに行きます。』
想像した通りの答えにクスッと笑いが洩れた。
理由なんか何だっていい。
ただ会いたいと思った。
それが蒼牙も同じであれば嬉しい。
『...悠さん?』
俺が何も言わないことに蒼牙が名前を呼ぶ。
「ん、聞いてるよ。....蒼牙」
『はい?』
「お前に会いたいよ。」
『!!!』
素直に気持ちを伝えると、蒼牙が息を飲んだのがわかった。
「今から帰ろうとしていたんだ。迎えに来てくれると嬉しい。」
帰れないほど飲んでいるわけではない。
でも、蒼牙が俺のために動いてくれるのが嬉しい。
『直ぐ向かいます、待ってて。』
蒼牙が走りだしたのが音で伝わる。
携帯を切ると、俺は公園の出口に向かったー。
「悠さん。」
公園の花壇に腰掛け桜を見上げていると、後ろから蒼牙の声がした。
振り向くと少し息の切らした蒼牙が立っていて「走って来たのか」と笑いが洩れた。
「悠さんがあんなこと言うから、早く会いたかったんです。」
そう言って照れたように笑う蒼牙に、「ん、ありがとうな。」と返し手を差し出した。
すぐに掴まれた手を引かれ立ち上がると、そのまま背中に腕を回し抱きついた。
「悠さん!?」
夜とはいえ、まだ周りには人が多く行き交う人も多い。普段なら絶対しないであろう人目のある中での行為に、蒼牙のほうが慌てている。
.....いつもとは逆だな。
そう考えると可笑しくなって、俺は肩を震わせながら笑った。
「大丈夫だよ。酔っぱらいがふざけているようにしか見えないから。」
そう囁きながら、肩口に顔を埋めた。
蒼牙の匂いがする。
当たり前なのにそれが愛しくて、俺は深く息を吸い込んだ。
「...もう、あんまり可愛いことしないでください。我慢できなくなるでしょ。」
溜め息と共に背中を撫でられる。
「流石にキスは無理だな。」
笑いながら言うと、「俺はできますけど?」とイタズラっぽく返された。
「そうだな、お前は平気だろうな。」
これがスイッチの入った蒼牙なら確認もせず口付けてきただろう。
そう思いながら身体を離す。
「せっかくだし、花を見て帰らないか?」
頭上の桜を見上げる。
「そうですね。」と笑う蒼牙に、俺も微笑んだー。
桜の花が舞い散るなか、蒼牙と肩を並べて歩く。
「凄い...綺麗ですね。」
呟く蒼牙を見る。
....あぁ、想像した通りだな。
桜の花を見上げる蒼牙はとても綺麗で、まるでそこだけ別の空間のようだ。
周りの喧騒が嘘のように蒼牙の纏う空気は静かで、手を伸ばすと消えてしまいそうだ。
「...悠さん?」
立ち止まり蒼牙を見つめる。
『一目惚れだったんだろうな』
木内の言葉を思い出す。
こんなに綺麗で優しい男が、どうして俺に一目惚れしたのか分からない。
だけど本当にそうなら...嬉しい。
夜風にあたり酔いはすっかり覚めた。
だけどまだ蒼牙には酔っているふりをしても良いだろうか...
「...キスしたいな」
小さく呟く。
こう言えばお前は我慢なんかしないだろう?
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