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認識
朔弥から話を聞いてから一夜明け、会社のデスクで仕事をしながら溜め息が溢れた。
昔から人懐こくて俺の後を付いて回っていた弟は、知らぬ間に肉食系男子に育っていたらしい。
『職場の女の子から誘われてホテルに入ったら、その子が勘違いして彼女気取りになってさ。それが他の女の子達に伝わって色々面倒くさくなったから辞めてやった。ちょうど気になる事とやりたい事もあったし、潮時かと思って。』
簡単にインスタント麺を食べる俺の向かいでニコニコと話す朔弥を、俺は箸が止まったまま凝視した。
まさか女関係で仕事を辞めたとは想像もしていなくて、聞き間違いかと思ったほどだ。
でも『女の子の思い込みって怖いね。』と笑った朔弥に、嘘ではなく本当なんだと突きつけられて。
俺には縁のないショップ店員をしていた朔弥は、兄である自分が言うのもおかしいがカッコ良かった。
どちらかと言うと女顔で、小さい頃はよく女の子と間違われていた朔弥。
成長するにつれて顔立ちも引き締まっていき、今では俺よりも背が高くなった。
昔からニコニコと人当たりが良いのは変わっていないが、あまり他人に興味がないところがある。
彼女ができても長続きすることがなく、それを嘆いている様子もなかったから...今回の話を聞いて少し心配になった。
『お前、まさかヤるだけが目的の付き合いをしてきたんじゃないだろうな』
まさかあの可愛かった弟がヤりちん野郎になってたらどうしようかと不安になり聞くと、『まさか。そんな失礼なことはしないよ。』と返された。
それを聞いて安心しかけると『誘われたら頂くだけだよ。溜まったらツラいから。』と続けられて、結局は頭を抱える結果になったわけだが。
とりあえず頭を一発殴ったが、『兄さんはやっぱり優しいね』と嬉しそうに笑われただけだった。
両親が共働きで、一緒に過ごすことが多かった弟。
いったいどこで教育を間違えたのか。
「やっぱりもっと強く殴れば良かった...」
「は?何だよ急に、怖いな。」
ボソりと呟いた言葉を拾われてハッとする。
見上げると木内が立っていて、昼飯に誘うつもりなのか財布とタバコを握っていた。
「...悪い、何でもないよ。」
苦笑しながら立ち上がり、昼休憩に入ろうと携帯を握る。
携帯はメッセージランプが光っていて、多分朔弥からだろうと半ば確信をもって開く。
『今日の晩飯はハンバーグ。仕事頑張って!』
まるで彼女のような内容のメールに笑いが溢れた。
俺の好物を準備して待ってくれる朔弥が可愛い反面、今日も蒼牙に会えないことが残念だ。
「待たせて悪い、行こうか。」
木内に声をかけ肩を叩く。
後で蒼牙に電話しよう。会えないのならせめて声が聞きたい。
今の自分の生活は蒼牙が中心になっている。
朔弥にもいつかそういう相手が見付かると良い。
そう思いながら俺は木内と会社をあとにしたー。
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