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違和感
side 蒼牙
今日で丸4日、悠さんと会っていない。
付き合い出してから初めてだ、こんなに会わないのは。
自宅に弟さんが来ているから俺がお邪魔してはダメだと分かってはいるが、こうも会う時間が減ってはなかなかにツラいものがある。
せめて食事くらい一緒にしたいが、俺も今週は遅出で時間が合わない状態で。
結局声を聞くだけしかできなくて、そろそろ電池が切れそうだ。
明日は日曜日、悠さんは休みのはずだ。俺は仕事があるけど午前中なら会える。
そう思って悠さんに電話を掛けようとスマホを手にすると無機質な着信音が響いた。
慌てて画面を確認すると、そこには悠さんの名前。
一気に心拍数が上がった。
「はい」
一度深呼吸をしてから電話に出る。きっと今の俺は、締まりがない顔をしているに違いない。
『俺だ。今大丈夫か?』
「もちろんです。ちょうど俺から電話をしようと思っていたところです。」
悠さん風に言うと、今の俺は尻尾を振っているのだろう。自分でも自覚できるくらい浮かれた声をしている。
『そうか。ゆっくり話したいけど、また仕事に戻らないといけないから手短に話すな。』
気のせいでなければ悠さんの声もどこか嬉しそうに聞こえる。
俺は電話の向こうにいる悠さんの姿を想像しながら会話をしていったー。
「すみません!お待たせしました。」
「ん、お疲れ。」
ホテルの裏口から急いで出ると、そこには焦がれていた悠さんの姿。
一度自宅に戻ったのか私服に着替えた悠さんが微笑みながら迎えてくれた。
電話で夜に会う約束をしてから、早く時間が過ぎろと願いながら働いた。
「まだ開いてる店も多いし、飲みに行くか?」
「そうですね、だったら個室がある店が良いです。」
俺がそう言うと、悠さんは「だな。」とニッコリ笑って歩き出した。
肩を並べて歩きながら横目でその姿を見る。数日ぶりの悠さんに、今更ながら心臓がドキドキした。
週末で賑わう店の入口で個室が片付くまで待ち、その間も悠さんの血の香りが俺を誘惑する。
個室に通され店員がいなくなると、俺は立ち上がって悠さんの側に行きそのしなやかな身体を抱き締めた。
「···やっと触れられました。逢いたかったです、悠さん。」
強く抱き締め囁くと、「俺もだよ。」とクスクスと笑う悠さんの髪が頬に当たる。
渇いた身体に水が染み渡るように、心が満たされていく感覚。
これほどこの人に飢えていたのかと、自分でも可笑しくなる。
でも、腕の中に閉じ込めた愛しい人の香りを胸に吸い込んだその時···俺はある違和感に気が付き、そして固まってしまった。
「···蒼牙?」
背中に回されていた手が服を掴み、軽く引っ張る。
何も言わない俺の顔を悠さんが覗き込んできた。
「どうした?」
少し不安そうな顔をした恋人の瞳には、きっと情けない表情の俺が映っているのだろう。
優しく頬を撫でてくる悠さんの手を俺は掴んだ。
「そう···ンッ!」
もう一度名前を呼ぼうとしたその唇を、俺は自分のそれで塞ぐ。
開かれた唇から舌を挿し込み、数日ぶりの悠さんの熱を感じた。
なのに心の中はスッキリしない。
···感じた違和感が満たされるはずだった心を蝕んでいる。
知らずと荒々しくなるキス。
逃げないように身体と後頭部を押さえ、抱き込むようにして悠さんの口腔内を犯していった。
チュッ、チュク··クチュッ····
「··ンッ、フッ····ア、」
満たされたくて執拗に重ねる口付けに、悠さんは背中にしがみついて応えてくれる。
何度も角度を変え、痺れるほどに舌を絡め吸い上げていった。
···チュッ
やっと悠さんを解放した時には互いの唇を銀糸が繋ぎ、プツリと切れた。
「··ンッ、そう、が···?」
「····すみません···」
ハアハアと息を切らした悠さんの額に俺は自分の額を合わせると、目を瞑って謝罪した。
隣にいる時には悠さんの血の香りで気付かなかった。
おそらく悠さん自身も気付いていない。
でも···抱き締めたら分かる。
悠さんの体からは他の男の匂いが漂っていたー。
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