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朔弥
side 朔弥
いつからだろう、毎日が単調で変わりのない日々。
何をしても楽しいと思えない。
昔から周りが色褪せて見えて、ちやほやされても嬉しくなどなかった。
両親は共働きで留守にすることが多く、甘えたいときに側にいるとはかぎらない家庭だった。
そんな中、ただ一人だけ鮮やかに見えたのが兄さんで。
『朔弥』
名前を呼ばれれば嬉しかった。
学校から帰るとおやつを出してくれ、一緒に食べた。宿題を教えてくれた。自分が遊びに行くときには必ず俺を連れていってくれた。
女顔をからかわれれば代わりにケンカをして、『お前はカッコいいよ』と励ましてくれた。
俺の世界は兄さんで回っていて、例え友達や両親がいなくても平気だった。
兄さんが高校生になり初めて彼女ができた時、俺が感じたのは兄を奪われたという寂しさだった。
俺は兄さんがいればそれで良かったが、兄さんはそうでは無いのだと現実を突きつけられて。
中学生だった俺はまだ気持ちを上手く表現出来なくて、兄さんが振り向いてくれないかと夜遊びをしたりした。
初めて女性を抱いたのもこの時で、自分の顔が女受けすることも知った。
毎日遅くまで時間を適当に潰し家に帰る。
その度に心配そうに声を掛けてくれるのが嬉しくて、用意してくれていた晩飯を残さず食べているうちに身長は兄さんと変わらないくらいになっていた。
『朔弥のが兄貴みたいだな。』と笑う姿が可愛いと感じた。
スキンシップで抱き付けば、仕方無いな...という風に返してくれる。
それが単純に嬉しくて、ことあるごとに抱き付いていた。
やがて兄さんは彼女と別れ、その後は誰とも付き合うことなく大学へと進学し、俺も夜遊びを止めて兄さんと過ごす時間を増やした。
『篠崎ってブラコンだろ』と周りに笑われたが、そんなことは人に言われなくても自覚していたし、気にならなかった。
俺も彼女を作ってみたが、一度身体を繋げてしまうと女の束縛が強くなり一気に興醒めしてしまう。
そうして彼女が去って行くことよりも、兄さんがいつまた恋人を作るのか…その事のほうが気になっていることに自分でも呆れた。
大学卒業後、兄さんは独り暮らしを始め一緒に過ごしていた時とは生活が一変した。
たまに会う兄さんはスーツがよく似合っていて、会社でももてているだろうと思わせた。
恋人ができたと聞いて心がモヤモヤしたが、兄の様子を見ているとそれほどのめり込んでいるようには感じられなくて。
まだ他人のものになっていないのだと安心した。
俺は相変わらず他人に興味が持てずにいたが、外面の良さを活かして仕事は順調に進んでいた。
それでも男である以上、生理現象は押さえられるものではなく...誘われれば有り難く発散させてもらう生活が続く。
年月が過ぎると、兄さんに新しい恋人が出来たと知っても昔のような寂しさを感じることはなくなり、俺の兄への執着は子供じみた独占欲だったのだと思えるようになっていた。
そう思っていた....このGWまでは。
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