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朔弥2

賑わいを見せるGW。 ショップも忙しくていい加減営業スマイルにも疲れた頃、兄さんが店に買い物に来た。 滅多に高級な買い物をしない兄さんがこの日は違っていて、一通り店内を見た後に腕時計を購入した。 『プレゼントにしてくれ。』 カウンターではにかんだ笑顔を見せる兄さんに、可愛いと思う反面で訝しく感じた。 別に腕時計をプレゼントすることが珍しいとは思わないが、今まで兄さんがこんなに一生懸命にプレゼントを選ぶのを見たことがない。 新しい恋人ができたことは数ヶ月前に聞いていたが、この日買った腕時計はメンズ物で。 何となく嫌な予感を感じながら『一緒に晩飯食べようよ。』と誘い、俺が上がるまで待ってもらった。 せっかくだからゆっくりと話がしたくて、食事の後にコーヒーを飲みにカフェに寄ったとき。 兄さんの携帯に着信があった。 『悪い、ちょっと出るな。』 画面を確認した兄さんが嬉しそうに席を立つのを見ながら、恋人からの電話だったのかと少し面白くない気持ちで見送った。 モヤモヤする。 せっかく俺とゆっくりしていたのに...と邪魔をされたような気持ちになり、そんな自分に呆れて苦笑した。 いい加減兄さんから卒業しないと...と自分に言い聞かせる。 『恋人からの電話だった?』 電話を終え戻ってきた兄さんにあえてそう聞くと、照れたように笑ったあとで『まあな。』とはにかんだ。 その笑顔は昼間に見たあの笑顔と同じで。 あの時抱いた嫌な予感が、確信へと変わっていく。 『今日のプレゼント喜んでくれるといいね...電話の相手、男だろ?』 そう言うと、兄さんは驚いたような表情をして俺を見た。 『...気付いてたのか?』と小さな声で狼狽える兄さんに俺は笑って見せた。 『あんなに一生懸命な兄さん、初めて見たよ。大切なんだね。』 内心は舌打ちしながらそう言うと、兄さんは今まで見た中で一番綺麗に笑った。 その笑顔を見て、俺は自分の中にある狂気めいた想いに初めて気付いた。 兄さんが他人のものになっている。 心も...恐らくは身体も。 しかも、その相手が男だと? 許せない、俺から兄さんを奪っていくことなんか、絶対に。 相手が女だったからまだ許せたんだ。 俺がどんなに望んでも..男だから、弟だからと諦められた。 そうして、無理やり自分の気持ちを誤魔化して、子供の独占欲だと思い込んできたというのに...。 向かいに座る兄さんを見た。 コーヒーを飲む姿に微笑みが洩れる。 これが異常な感情だって解ってる。 『兄さんが欲しい』という強い欲望に、俺が一番戸惑っている。 だけど...どうしても我慢できない。 あなたが他の男のものになっていくのを黙って見ていられるほど、俺は大人しくなんかない。 ごめんね、兄さん。 俺はあなたにとって、ただの弟でいたくはないんだー。

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