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「…ハァ。」 社員食堂で遅めの昼食をとり溜め息を溢す。 昨夜激しいセックスをした後、通常モードに戻った蒼牙は 『加減できなくてすみませんでした…。』 と項垂れていた。 耳と尻尾がシュンとしてる様が目に浮かび、ベッドの中で声を上げて笑った。 酷使した身体はあらゆる場所が悲鳴をあげ、甲斐甲斐しく世話をしてくる蒼牙に素直に甘えた。 …まぁ、アイツのせいだから当たり前だ。 一晩たって動けるようになり、心配する蒼牙に合鍵を渡して出社したわけだが…ダルいものはダルい。 気付けば溜め息が漏れ腰を擦ってしまう。 「ずいぶん悩ましいため息だな。」 ふいに声を掛けられ顔を上げると、そこには同僚であり友人でもある木内がトレーを持って立っていた。 「…悩ましいって何だよ。」 向かいに座る木内に苦笑する。 木内は色黒の顔をニヤッとさせ、自分の首の後ろを指差しながら言った。 「ずいぶん積極的な彼女だな。痕、見えてるぞ。」 「!な、!!」 慌てて首の後ろを手で隠す。 顔が熱くなっていく。 今朝鏡を確認した時、血を吸われた痕はシャツで隠れていて安心した。 まさか、首の後ろにまであったなんて…! …クソッ、帰ったら殴ってやる。 「大丈夫だって。よく見ないと分からないから。…それにしても羨ましいな。最近やけに色っぽいから彼女ができたんだろうとは思っていたけど、まさかそんなに積極的とは。」 からかうように言われ、「見なかったことにしてくれ。」と溢した。 だいたい、木内は羨ましがる必要なんてないはすだ。 コイツは社内でもかなりモテる。 スポーツで鍛えた身体に高い身長。爽やかな笑顔は嫌味がなく、話題も豊富だ。 「気付くヤツは気付くだろうけどな。お前を狙って毎年チョコを準備する女性陣も可哀想に。」 そう言って定食に箸をつける木内に首を傾げた。 「何言ってるんだか。あれは義理だよ。」 毎年貰うチョコを思い出し、小まめな女子社員に頭が下がる思いだ。 有りがたく戴くけど、無理しなくて良いのに。 「…お前、それ本気で言ってる?」 箸を止めて俺を見つめてくる木内に頷くと「…ここまで鈍いとは。」とボヤかれた。 「まぁ今年はお前も本命からのチョコが貰えるわけだ。他はどうでもいいか。」 呆れたように言われ困ってしまう。 曖昧に笑ってその場を誤魔化し話題を変えながら、俺は昨日蒼牙が言っていたことを思い出していたー。

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