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痕2

side 蒼牙 悠さんのアパートから一度自分の家に帰る。ポケットから鍵を取り出して差し込もうとして、新たに増えた鍵を見つめた。 出勤前に渡してくれた悠さんのアパートの鍵。 思わず笑みがもれる。 鍵を掛けたらポストに入れておくつもりで受け取った。その事を伝えたら『何言ってんだ?』と笑われた。 『お前にやるよ。』そう微笑んだ貴方が綺麗で一瞬見惚れた。 気付いた時にはグッと引き寄せられ唇に悠さんの温もりを感じて。 抱き締め返そうとしたらするりと逃げられ、『じゃあな、行ってくる。』と出ていってしまった。 やることが男前でいつも先を越されてしまう。 悠さんの鍵を握りしめ、やっぱり敵わないなと幸せな溜め息が口を吐いた。 「お前、その背中…。」 職場に着きスタッフルームで着替えをしていた時、隣で着替えていた内藤くんに声を掛けられた。…というか呟きが聞こえた。 「ん?どうかした?」 聞き返すと左の肩甲骨辺りを指差され苦笑される。 「…すげーな。引っ掻き傷だろ、それ。」 「…え?」 急いでロッカーに備え付けの鏡で確認した。 …本当だ。爪痕だね、これは。 左肩より少し下。 赤い線が斜めに二本付いていた。 昨夜の情事を思い出す。背中に腕を回し、しがみついてきた悠さん。 確かあの時、一瞬背中に痛みが走った気がした。 …夢中すぎて全く気にしてなかったけど。 顔が熱くなる。 他人に見られた恥ずかしさからではなく、あの時のあの人を思い出したから。 最高に可愛くて綺麗で…そしてエロくて。 貴方に付けられた傷痕まで愛しい。 思わず微笑みながら爪痕を撫でた。 「…うわぁ、何その幸せオーラ。腹立つわ~。」 内藤くんの声にハッとする。 「あぁ、ゴメンね。」 笑顔で謝ると呆れたように「良いなぁ、彼女。俺にも誰か紹介しろ!」と拳で肩を軽く殴られた。 「バカ言ってないで、仕事出るよ。お先です!」 素早く着替えを済ませ、爪痕を隠す。 内藤くんの横を通り過ぎながら声を掛けスタッフルームの扉を開けた。 今日も頑張ろう。 そして早く貴方に会いたい。 にやける顔をひとつ叩くと、俺は気持ちを引き締めフロアに向かった。

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