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帰省2

side 蒼牙 週末、約束の時間に悠さんのアパートに着くと見慣れない車が駐車してあった。 「じゃ、行くか。」 玄関に置いてあった鍵を手に取りチャリッと鳴らしてみせると、悠さんは荷物を片手に先に出てしまう。 アパートの鍵を掛け追いかけると、車の中に荷物を乗せている姿があって。 「悠さん、運転できるんですね。」 初めて見る悠さんにワクワクしながらそう言うと、「ペーパードライバーだけどな。」と笑った。 走り出した車からの窓を開け外の風を受けながら、隣で運転する様を見つめた。 何をさせても器用にこなす人だが、運転をしている姿は特にカッコよくて見惚れてしまう。 ···女の子だったら即落ちでしょ、これ。 肘を窓に掛け片手でハンドルを握り信号待ちをしている姿に、そんなことを考える。 「···蒼牙、あんまり見られると運転しにくいんだけど。」 前を向いたまま、やや呆れた口調で言われハッとした。 「え、あぁ。ごめんなさい。」 「いや、別に謝らなくても良いけど。」 クスクスと笑いながら言う、その柔らかい声に心臓がドクドクと音をたてる。 今すぐキスしたい衝動にかられるが、運転中にそんなことができるはずもなく。 仕方なく窓の外の風景を眺めた。 車はまだ都内の賑やかな通りを走っていて、休日とあって交通量も人も多い。 こんなたくさんの人達が、みんな目的も向かう場所もバラバラで動いてるんだな··· そんなことを考えながら何とはなしに眺めていると、車がまた信号で止まった。 「···蒼牙」 「はい。····ッ!」 名前を呼ばれ運転席を振り返れば、目の前に悠さんの顔があって。 ···チュッ 軽く触れた唇が直ぐに離れていく。 突然のキスに驚いてしまい「え、あの、」と狼狽えてしまった。 まだ回りには車の数も多く、歩道には歩いている人がたくさんいる。 そんな中で悠さんからキスを仕掛けてくるなんて··· 「フッ、ははッ、」 運転席に身体を戻した悠さんが可笑しそうに笑うのを、真っ赤になりながら見つめた。 「···今日の悠さん、男前すぎです。」 呟いた言葉に「お前がキスしたそうな顔をしてるからだろ。」とニッと笑われる。 ほんと、この人どうにかして···。 いったいどれだけ俺を甘やかすつもりなのか。 赤く染まった顔を隠すように、窓の外に視線を戻した。走り出した車は順調に進み、間もなく高速道に入る。 朝から悠さんに負けっぱなしなことを悔しく感じ、流れる景色を見つめながら「次は俺から仕掛けますから。」と小さく呟いたー。 出発から三時間。 悠さんの祖父母宅まであと数分というところまで来て少し緊張してきた。 「ほら、あそこが家だ。」 指差された先には、田園に囲まれた大きな家。 「前に帰って来たのはお前と出会う前だったから···もう半年以上来てないな。」 駐車場に車を停め懐かしむように目を細める悠さんに、「なんか、すみません。せっかくの水入らずにお邪魔してしまって。」と謝ると、「···バカだなぁ。」と頭をひとつ叩かれた。 「言っただろ。お前と一緒だと嬉しいって。それに電話でお前が来るのをすごく楽しみにしてたよ、二人とも。」 そう言って車から降りる悠さんは本当に嬉しそうにしていて、それを見て俺も安心できた。 後ろ姿を追いかけ玄関に向かいながら小さく息を吐く。 緊張だけではないワクワクとした気持ちがあるのは確かで。 ···ホタルも楽しみだけど、悠さんのおじいさん達に会うのもとても楽しみだな。 「悠さん···俺、今すごく楽しいです。」 そう呟くと「ん、良かった。」と悠さんは笑った。 「いらっしゃい。よく来たね。」 チャイムを鳴らし玄関に入った俺達を、暖かい声で出迎えてくれたおじいさん達の笑顔に心がほっとした。 安心できる雰囲気は悠さんと似ている気がする。 「ただいま。じいちゃん、ばあちゃん。」 「初めまして、秋山と申します。突然にすみません。」 悠さんに続いて玄関をくぐり、笑顔で挨拶をする。 「いいからいいから。ほら、疲れたでしょ。早く中に入りなさいな。」 嬉しそうに中に招き入れてくれるおばあさんに「ありがとうございます。」とお礼を言い、靴を脱ぐ。 先に入っていく悠さんが、俺の知っている大人の男とは違った孫の顔になっていることに、どこか微笑ましさを感じたー。

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