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帰省3

side 悠 久しぶりに帰ってきた祖父母の家は、相変わらず暖かい雰囲気と穏やかな空気に包まれていて、とても安心できる。 畑仕事に向かった祖父を見送り、祖母と蒼牙の三人でゆっくりとお茶を飲みながら話をしていった。 「ホタルを見たいだなんて、やっぱり都会の子は違うねぇ。」 笑いながらそう言う祖母に、蒼牙も俺も苦笑いした。 実際、俺も昔に見ただけで、ちゃんと覚えている訳ではない。 都会暮らしばかりで、こんなのどかな環境には縁がないのが現実だ。 「年々減ってるような気もするけど、それでもたくさん飛んでるわ。今晩なんか、綺麗に見えるんと違うかね。」 お茶を飲みながら話す祖母に「楽しみにしてます。」と笑いかける蒼牙を、不思議な気持ちで見つめた。 この田舎の祖父母宅にまさかこいつと訪れる日が来るとは思ってもみなかった。 久しぶりに会った祖父母はとても元気そうで、蒼牙の杞憂なんかよそにニコニコと嬉しそうに話をしている。 「せっかく来てくれたんだし、ばあちゃん張り切って夕食作るけんね。あんたらはゆっくりしとり。」 暫くして台所に向かおうとする祖母に「じゃあせっかくだし、じいちゃんの畑でも見に行くよ。」と声をかけた。 ···あ、しまった。蒼牙にそれでいいか確認せずに決めてしまった。 瞬時にそう思う。 「そんなこと気にせんでもええよ。」 笑いながらそう言う祖母に、蒼牙が「俺が見てみたいんです。」と返した。 思わず横を振り返れば「ね?」と微笑む蒼牙がいて。 その優しい笑顔に自分の顔も綻ぶのが分かった。 「そうかい?じゃあ、裏の畑にいると思うから行ってごらん。喜ぶよ。」 嬉しそうにそう言うと、祖母は台所に入っていった。 「···ありがとうな、蒼牙。」 二人きりになり先に立ち上がった蒼牙に声を掛けると、「何がですか?早くおじいさんの畑に行きましょう?」とクスッと笑いながら手を差し出された。 ···こいつの、こういう優しさが俺をこんなにも幸せな気分にさせる。 差し出された手を握り返し立ち上がると、俺はもう一度「ありがとう。」とお礼を言ったー。 「うわぁ!!」 蒼牙の大きな声が畑に響く。 振り返れば畑に座り込み土から何かを摘まみ上げていた。 「見て、悠さん!凄くでかい!!」 目を輝かせながら摘まんで見せたのはかなり太くて長いミミズで。 ウネウネと体を捩るその生き物に俺の背筋がザワザワとする。 「見せなくていい!!」 子供のように「でっかいなぁ‼」と喜ぶ蒼牙の横で、顰めっ面な俺。 昔から蛙や虫、ヘビなどは平気だがミミズだけは苦手で。 今も祖父の畑仕事を手伝いながらいつアイツが出てくるかとビクビクしていた。 まさか蒼牙がわざわざ見せるとは。 「けっこう可愛いと思いますけど。···ほら。」 ケラケラと笑いながら手のひらに乗せたミミズを差し出してくる。 「だから、いらないって!!」 さっきは差し出されて嬉しかった手も、今は憎たらしい。 「フッ!あはははッ!」 思わず一歩下がってしまった俺を見て大笑いするのを軽く睨み付けた。 それでもまだ腹を抱えて笑う蒼牙の背中を殴り、土を掘る。 「ほら、早く埋めてやれよ!」 小さな穴を指差しそう言うと、「はいはい。可愛いなぁ、悠さん。」とクスクスと笑いながらミミズを埋めた。 ···クソッ、後で覚えてろよ。 「はるくんは相変わらずミミズがダメか。変わらんなぁ。」 そう祖父が鍬を片手に可笑しそうに言う。 どう言われようと、これだけは生理的に受け付けないのだから仕方ない。 「そうくんは平気なのになぁ。」 『そうくん』と呼ばれ蒼牙が顔を上げた。 いつの間に仲良くなったのか、祖父が畑仕事をしている側で蒼牙が手伝いをしている。 初めての畑の手伝いが楽しいのか、イキイキとして見えるのは気のせいではないと思う。 「おじいさん、これトラックに乗せたらいいですか?」 重たい荷物も軽々と軽トラに運ぶ蒼牙に感心した祖父が「そうくん、うちで働かんか。」と誘っている声が聞こえた。 「あははは!悠さんをお嫁さんにくれるなら来ますよ。」 「お~ええよ、ええよ。なんだったら、さくちゃんもやろうかなぁ。」 「いえ、朔弥さんはいりません。」 蒼牙の軽口に祖父が冗談で返す。 ··もうどこから突っ込めば良いのか分からない。 「そろそろ帰るかなぁ。早く飯食って、夜にはホタルを見に行くんじゃろ。」 祖父のその一言に「はい。」と蒼牙が嬉しそうに返事をする。 気付けばもう日が暮れ始めていて、あっという間に時間が経っていたことに気付かされた。 帰ったら祖母の料理が待っていると思うと、急に腹も減ってくる。 それは蒼牙も同じだったのか「お腹空きましたね。」と腹を擦りながらニコリと笑う姿に、不覚にもドキッとしてしまった。 片付けも終わり、先に車で帰っていく祖父を見送る。 すると蒼牙が俺を抱き寄せて耳元で囁いてきた。 「悠さんをお嫁さんにくれるって。おじいさんから許可頂いちゃいました。」 「だな。でも、朔弥もくれるらしいぞ。」 クスッと笑いながら答えると、「悠さんしかいりません。」と抱き締める腕に力を込められた。 その声が思ったよりも真剣で、また心臓がドキッと跳ねる。 甘えるように髪に顔を擦り寄せる蒼牙を抱き締め返すと、俺は身体を引き離した。 「帰るか。ばあちゃん待ってくれてる。」 赤らみかけた顔を隠すように夕日を見つめる。 隣に立っていた蒼牙が「夕日も綺麗ですね。」と呟くのに、俺は黙って頷いたー。

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