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新生活に向けて

side 悠 蒼牙との同棲を決めてから、お互いに休みの日には新しい部屋を探すことに専念していた。 そして先日、互いの職場や駅などを考慮して決めた物件を見に行きそこを契約して帰った。 駅まで徒歩5分の2LDK。 俺の要望である広いリビングとベランダ、蒼牙の要望の対面キッチン。それらが備わったマンションがやっと見つかった時には、蒼牙と二人でガッツポーズをとった。 『こっちの広い部屋が寝室ですね 。』 部屋を見ている時、ニッコリと笑ってそう言った蒼牙は『ベッドは俺が買いますから。』と続けた。 あの時の嬉しそうな顔とどこか有無を言わさない雰囲気につい頷いてしまったが、安い買い物ではないのに···。 というか、アイツ···絶対にダブル買う気だよな··· ····· ··········。 は、恥ずかしいだろ!! いや、一緒に暮らすことを提案したのは俺だし、今までだって一つのベッドで眠っていたし、それが嫌なわけではないんだが··· でも、やっぱり恥ずかしい···!! ひとり、部屋の中でウダウダと考えているとインターホンが鳴った。 時計を確認すると、蒼牙が連絡してきていた時間になっていて少し慌ててしまう。 今日は二人で生活に必要な物を買いにいく予定で、多分···というか、絶対にベッドも見に行くことになると思う。 玄関の鍵が回される音を聞きながら、赤面しつつある顔を叩いて引き締めた。 「おはようございます。お待たせしました、悠さん。」 玄関から声が聞こえる。それに、「おはよう。」と応えると、俺は鞄を持ち立ち上がった。 恥ずかしがっていることをバレる訳にはいかない。 バレたら絶対に『可愛い』とか言って、人目も気にせず触れてくるに違いない。 密かな決心を胸に、俺は蒼牙の待つ玄関に向かった。 「結構買いましたね。駅に置きに行きませんか?」 両手に買い物袋を下げ、俺を見ながらニッコリと笑う。 朝からずっと蒼牙の機嫌はすこぶる良くて、鼻歌でも歌いそうなくらいニコニコしている。 買い物といっても、お互いに自宅で使っているものをそのまま持っていく予定だからそれほどはないだろうと思っていたが、いざ買い始めると細かい生活用品などが気になり、想像以上の荷物になってしまった。 「そうだな。まだ見てない物もあるし、一度駅に戻ろうか。」 何気なくそう言うと、蒼牙はイタズラっぽく笑った。 その意味深な笑顔に警戒しつつ「···なんだよ。」と聞くと、「『まだ見てない物』って何ですか?」と笑いを含んだ声で返された。 「···っ!」 思わず言葉に詰まるのを、クスクスと笑いながら見つめてくる。 「···お前が買うって言ってたやつだよ!」 そっぽを向きながらそう言って、俺は先に駅に向けて歩き始めた。 後ろから至極楽しそうに響く蒼牙の笑い声に「行かないのなら帰るからな···」と呟くと、「ごめんなさい、行きます。」とクスクスと笑いながら返された。 駅のコインロッカーに荷物を預け、近くのファミレスで昼食を取ることにした。 ファミレスに来るのは久しぶりで、思ったよりも客が多い。 「こちらにどうぞ。」とにこやかに案内してくれるウェイターさんに着いていく途中··· 「きゃっ!」 「っと!」 足を滑らせ転倒しかけた女の子をとっさに支える。 見ると足元は水が零れていて、それに足をとられたようだ。 「あ、ありがとうございます。」 「いや、大丈夫?危なかったね。」 真っ赤になりながらお礼を言われ、支えていた腕を離す。 「はい、大丈夫です···申し訳ありませんでした。ご案内致します。」 深く頭を下げお礼を言うと、改めて席に案内された。 席に着き、向かいに座った蒼牙を見ると複雑そうな顔をしていて。 ···まさかとは思うけど、妬いてるのか? 大人しくなった犬に呆れ半分、可愛さ半分で笑いかけ俺は口を開いた。 「あの場合、助けない方がおかしいと思うけど?」 「わかってますよ。···俺が言いたいのはもっと別のことです。まぁ妬いてもいますけど。」 「別のこと?」 蒼牙が言っていることがよく分からなくて首を傾げると、「ちょっと来てください。」と立ち上がり俺の腕を掴んだ。 そのままトイレに向かい中に入ると、扉に押さえ付けられて顔を覗き込まれる。 ···キスされる、 そう思いとっさに目を瞑るが、蒼牙が唇に触れてくる様子はなく、代わりに小さな声が聞こえた。 「···口の中、切ってるでしょ。」 「···え?」 指でそっと唇に触れられ、蒼牙を見つめ返した。 深く蒼い瞳はどこか熱をもっていて、困ったように微笑まれた。 「俺が貴方の血の匂いに気付かないとでも?」 「···そうか、」 さっき抱き止めたはずみで女の子の頭が口に当たってしまい、口の中を少し切ってしまった。 まさかそれを気付かれていたとは思っていなくて、少し驚いてしまう。 ···でもそうか、蒼牙にはバレるよな。 「痛くないですか?」 頬を撫でながら聞いてくるのに笑いが溢れた。 「少し切っただけだよ、なんともない。」 そう言って押さえつけてくる腕から抜け出そうとすると「じゃあ、問題ないですね。」と呟く声が聞こえた。 と同時に、ぐっと肩を押され、見上げたその瞬間に唇に熱が被さってきたー。

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