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引っ越しの夜

side 悠 忙しい一日が終わり、新しい部屋で過ごす初めての夜。 風呂に湯を張りながら洗面室の整理をしていく。 内藤くんが手伝ってくれたおかげで本当に早く引っ越しを終わらせることができた。 夕食は3人で食べに行き、そこで内藤くんとは別れ二人で新しいこの部屋に帰ってきた。 マンションに帰ってからは疲れた身体を癒そうと思い、直ぐに風呂の準備をしているわけだが··· 「蒼牙···。」 「何ですか?」 耳元に聞こえる蒼牙の声に少しだけ身体が反応してしまう。 低くて優しい、甘えるような声。 声だけで蒼牙は俺の身体に甘い痺れを走らせることができる。 少しでも片付けておこうとタオルや洗剤などを棚に入れている最中、フワリと後ろから抱き締められ、そのまま動くことが出来なくなってしまった。 「『何ですか?』じゃない。片付けられないだろ。」 抱き締めてくる腕を軽く叩きながらクスッと笑うと、背中から温もりが離れた。 そうして身体を反転させられ向かい合った格好になると、蒼牙はまっすぐに見つめてきた。 「悠さん、何か忘れてませんか?」 「···何を?」 真剣な顔付きで俺を見つめるから、何か重大な事を忘れているのかと首を傾げる。 「今日は忙しかったし、内藤くんもいました。」 「···そうだな。おかげで助かったよ。」 ニコリと笑って「頼んでくれてありがとうな。」と続けると、蒼牙は嬉しそうに「はい。」と頷いた。 「それで?俺が何を忘れてるって?」 何となく言おうとしていることを察しながらも、わざとそう尋ねてみる。 蒼牙が見せる我が儘や独占欲、それらが全て俺に向けられていることがこんなにも嬉しい。 「『今日はまだキスしてないですね。』」 クスッと笑いながら昼間と同じセリフを言うと、蒼牙はゆっくりと顔を寄せてきた。 唇が触れる寸前「今度は邪魔もなしです···」と呟いたのが聞こえた。 「ンッ、蒼牙···」 チュッ、チュッと触れるだけのキスを繰り返す。 触れては離れ、離れてはまた戻ってくる優しいキスにだんだんと焦れてくる。 ···だけど もっと···と求めてしまう気持ちに反して、これ以上はダメだとブレーキをかける気持ちがある。 それは蒼牙も同じなのか身体を抱き締める手を動かす気配はなく、これ以上の刺激を与えないようにしているように感じた。 「悠さん···少しだけ舌を入れても良いですか··?」 僅かに身体を離し、瞳を覗き込んでくると蒼牙はそう呟いた。 深く蒼い瞳が俺を見つめる。 「···ダメだ。まだ風呂に入ってない。」 そう答えると困ったように「ですよね。」と笑った。 8月の暑い中、引っ越しの作業で身体はベタベタする。 こんな状態で盛るほど俺は我慢の効かない子供ではないが、蒼牙に触れられるとそれも怪しくなってくる。 ···それに、蒼牙との生活が今日から始まったのだから。 「蒼牙、風呂から上がったら···一つだけしたいことがある。」 目の前にある綺麗な顔を見つめながら微笑む。 「···したいことですか?」 不思議そうに繰り返す蒼牙に「だから、早く風呂を終わらせよう。」と笑い、腕の中から抜け出した。 「先に入るぞ。」 そう言って服を脱ごうとすると「この状況で脱ぐとか···拷問ですか?」と蒼牙は苦笑した。 「だったら見るな!」 脱いだTシャツを投げつけクスクスと笑う蒼牙を洗面室から追い出すと、俺は残りの服を脱いでいったー。

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