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引っ越しの夜は明けて

side 蒼牙 目が覚め隣を見る。 また覚醒しきっていない頭でボーッと周りを見回した。 見慣れない部屋に瞬きをしていくうちに、だんだんと頭がハッキリとしてきた。 ···そうだ。 ここは悠さんと俺の新しい部屋だ。 隣で眠っていたであろう悠さんの姿がないとこをみると、もう起きているのだろう。 昨夜の情事を思いだし、口を押さえてにやける顔を隠した。 『朝まで俺を離すな』 そう呟いた悠さんの身体を俺は何度も抱いた。 自分でも呆れるほどあの人が欲しくて、途中ぐったりと眠ってしまった悠さんにイタズラして起こしてはまた触れていった 『もう、満足しただろ···』と荒い息を吐く恋人を組み敷き『じゃあこれが最後··』と唇を重ねた時には、カーテンの隙間から明るい陽が射し込み始めていた。 耳をすませて寝室の向こうの様子を伺う。 カタン···と音がするのはキッチンからで、休日でもきっちりと朝食を作る悠さんらしい···と笑いが溢れた。 身体を起こしてベッドから降りる。 ダブルベッドでも俺が悠さんを抱き締めて寝るのは変わらない。 むしろ狭い方が抱き締める口実になっていたくらいで、『広いんだから離れろ』とか言われたらどうしようと思っていた。 でも『暑苦しい···』と文句を言いながらも、悠さんも俺の腕を退けることはしなかった。 ダブルを買うと決めたのは、実はセックスにシングルは狭いから···ということだけが理由だったことにあの人は気付いているのだろうか? そんなことを考えながらマットレスのシーツを剥がしベッドを整える。 昨夜の情事で汚れてしまったシーツを洗濯するために丸めると、俺は悠さんの待つキッチンへと向かったー。 「おはよう、蒼牙。」 キッチンに立ち、朝食を作っていた悠さんが俺を見て笑った。 「···おはようございます··」 ···あれ?普通だ。 絶対に『またやっちまった』と恥ずかしがっているか、『この絶倫!』と怒っているかのどちらかだと思っていたのだけど···。 キッチンの向かいに座り、料理をしている恋人を見つめた。 ···うん、やっぱり対面キッチンにして良かった。 部屋を決めるとき、対面キッチンだけは俺が譲らなかった。 こうして料理を作ってくれる悠さんを見るのが好きだから。 それにしても、これって··· 「なんだよ?」 俺がニコニコと見つめていたのを訝しんだのかトーストにバターを塗りながら聞いてくる。 「いえ、新婚みたいだなぁって、幸せに浸ってました。」 素直に答えると、悠さんは一気に顔を赤く染めた。 「···お前、バカだろ。」 憎まれ口を叩くと悠さんは「ん、並べて。」と朝食をカウンターに置いた。 「悠さん。」 「何だ?」 コーヒーを両手に持って俺の向かいに座ると、1つを俺に差し出しながら悠さんは俺を見た。 「···俺の、サラダしかありません。」 「そうだな。」 「···悠さんのは、目玉焼きがあります。」 「そうだな。」 俺は自分の皿と悠さんの皿を見比べながら『どうしてだろう?』と頭を捻る。 目の前には美味しそうな朝食が並んでいるが、なぜか俺のには目玉焼きがない。 悠さんのには2つあるのに···。 その代わり、サラダは倍の量が用意されている。 「何で?」 俺が首を傾げると、悠さんはキッと俺を睨み付けた。 「俺のは体力回復用、お前のは性欲抑制用だ!」 「·········」 真っ赤になりながら「文句があるか?」と続けるのに俺は一瞬呆気にとられた後、机に突っ伏して肩を震わせながら笑った。 必死に普通を装っていただけで実は照れてもいたし、怒ってもいたらしい悠さん。 ···わかってないなぁ。こんな可愛いことしたら逆効果なのに。 流石に昨夜はやり過ぎたし、今日は我慢しようと思っていたけど···これ、我慢できるかな。 モグモグとパンを頬張りながら悠さんが机の下から足を蹴ってくるまで、俺は笑い続けていたー。

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