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出張(リク作品)
side 悠
「······え?」
向かい合って夕食を食べながら俺が伝えた言葉を、蒼牙が聞き返してくる。
「だから、出張が入った。」
「···いつからですか?」
「来週の火曜から」
「···いつまでですか?」
「土曜まで。」
「··········」
箸を止めたまま蒼牙が黙ってしまう。
いきなりの話に戸惑っているのか、その表情は眉根を寄せた難しいものになっていて。
「···どこまで行くんですか?」
暫くしてから聞いてきたその声は、やけに小さかった。
「神戸まで。姫路のほうにも回ると思う。」
「神戸···ずいぶん遠いですね。」
フゥ···とため息を吐きながらそう言うと、蒼牙はスマホを取り出し操作し始めた。
おそらく予定を組み込んでいるのだろう。
「今回は新人の教育も兼ねてるからな。俺も出張は久しぶりだ。」
俺の言葉に蒼牙はピクッと肩を揺らした。
ゆっくりと顔を上げると、真っ直ぐに見つめながら口を開く。
「···もしかして、一人じゃないんですか?」
「違うよ。岸っていう新人と二人だ。」
「···········」
『ご馳走さまでした』と両手を合わせながらそう答え前を見ると、そこには不機嫌そうな顔をした蒼牙がいた。
「···何だ。」
「···別に、何でもないです。」
珍しく反抗的な態度に、もしかしてと苦笑した。
「仕事なんだから仕方ないだろ?たかが数日、俺が留守にするくらい我慢してくれ。」
身体を乗り出して蒼牙の頭をポンポン···と叩く。
別に数ヵ月も会えないわけじゃなし···と続けると、困ったようにその手を掴まれた。
「悠さん、勘違いしてるでしょ?」
「勘違い?」
掴んだ手を離すと、蒼牙は片手で顔を隠しながら呟いた。
「俺···今、すっげーカッコ悪いです。···悠さんの後輩にまで妬いてんの。」
「え···、」
「···情けない顔してるから、あんまり見ないでください。」
そう言うと立ち上がってリビングに向かい、ソファに身体を丸めるようにして寝転がった。
三人掛けのソファとはいえ、手足が長い蒼牙では窮屈そうに見える。
「···たかが数日、悠さんが居ないのを我慢するのは良いんです。でもその間、他の人が貴方と一緒に居るのかと思うと腹が立ちます···。」
どうやら明らかに拗ねているらしいその言動に、思わず笑いが溢れる。
「なんだ、ただのヤキモチか?」
クスクス笑いながら側まで近付き、ソファの隙間に浅く腰を掛けた。
俺の方を見ようとしない蒼牙の頭を撫でると「···そうですよ。」と小さな声が返ってきた。
「別に一緒に行くと言ってもホテルの部屋は別なんだが···だいたい、岸は男だぞ?可愛い女の子ならまだしも、男にまで妬くなよ。」
呆れ半分、可愛さ半分で笑うと、蒼牙がチラリとこちらを見た。
「男とか女とか関係ありません。俺が一緒に居られないのに、他のヤツが貴方の側にいることが嫌なんです。」
「····そうか。」
返ってきた言葉に胸が暖かくなる。
コイツの独占欲が心地良いんだから、俺もどうしようもないな。
頭をゆっくりと撫で、その柔らかい髪に指を通す。
長めの髪を耳に掛けるように撫で付けると、その形の良い耳にそっと口付けた。
「···なぁ蒼牙。」
「··何ですか?」
耳元で囁くと蒼牙がゆっくりと身体を仰向けにする。
「ヤキモチだけか?」
「·······」
「俺はお前と五日も会えないのは寂しいんだが···お前は違うのか?」
「ッ、もう···何でそんなに可愛いこと言うかな。」
そう言って蒼牙は腕を伸ばすと、覆い被さるようにしていた俺の身体を下から強く抱き締めた。
「俺だって寂しいですよ。···だから火曜までは、悠さんをしっかり充電させてください。」
「ん、」
抱き締める力を弛め顎を掬い上げてくる。
そのまま暖かい唇が重なり、チュッ···と音をたてた。
軽いキスを繰り返し、口を開けと唇を舌でつついてくる。
「···ふっ、蒼牙··」
チュッ、チュク···クチッ··
僅かに開いた唇から熱い舌が滑り込み深い所から絡まろうと蠢いた。
抱き締めていた手は背中をなぞり、明らかな意図をもってゆるゆると撫でてくる。
「ハッ···悠さん··」
キスの合間に呼ばれる名前と、背中に感じる暖かい手のひら。
それだけで身体が熱を持ち始めてしまう。
「ん···ダメ、だ··」
やがて服の裾から差し込まれてきた手を、咄嗟に掴んで止めた。
僅かに身体を起こしキスも止めさせると「ダメですか···?」と甘えるような声で聞いてくる。
繰り返し重ねた唇は濡れ、熱のこもった瞳で見つめてくる蒼牙に、心臓が早鐘を打った。
「···ッ、ダメだ。お前、まだ食事の途中だろ。」
「·········食事よりも、もっと食べたいものがあるんですけど···」
「ダメだ。」
また顔を寄せてくる蒼牙の口を手のひらで塞ぐ。
不満そうに眉根を寄せた表情に、俺も困ったように笑った。
「昨日も、一昨日もしただろ。それに、明日はお前も早番なんだから···ンッ、」
口を押さえていた手を掴まれ、熱い舌が指の間や手のひらを舐めてくる。
擽ったくて逃げようとしたが、しっかりと掴まれ逃げられない。
「や、蒼牙···」
「ん···分かりました。」
やがてゆっくりと手を解放すると、蒼牙はもう一度抱き締めてくる。
「···俺の仕事は大丈夫ですけど、悠さんに無理はさせたくないですから。でも、こんなに可愛く煽っといて我慢させるとか···小悪魔ですか?」
フゥ···と溜め息を吐く様子に苦笑した。
「ごめんな」と抱き締め返すと、腕の力が更に強まった。
それにしても『小悪魔』って···いい年した男に使う言葉じゃないと思うんだが····
「悠さん。」
「なんだ?···ンッ」
チュッ、チュッ···クチッ···
名前を呼ばれ顔を上げると、すぐに重なってきた唇に翻弄された。
いつの間にか身を起こしソファに腰かけ、抱き込まれるような形で口付けられる。
「ンッ···ふ、ぁ···」
「チュッ···ん、セックスはしません。でも、キスはたくさんさせて···?」
絡まる舌と、交わる唾液。
逃がさないとでもいうように後頭部を押さえる手。
角度を変えては重なる唇に、俺からも舌を差し出した。
明日は週末。
今日我慢した分、きっとお互いに求め合うのだろう···
甘い期待に心を震わせながら蒼牙とのキスに酔いしれていったー。
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