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出張2
side 蒼牙
いつもより早く目が覚めた。
カーテンの隙間から入る陽の光がまだ薄暗いところをみると、起床までまだ時間があるのだろう。
今日は悠さんが出発する日で、見送ったらもう土曜の夜まで会えない。
腕の中で規則正しい寝息をたてる悠さんを見つめた。
真っ直ぐでサラサラな髪が頬に掛かっている。
その髪を指で払い、現れた横顔にそっと手を添えた。
「····ん··、」
僅かに身動ぎゴソ···と身体を寄せてくるその仕草に、思わず頬が弛む。
昨夜は持ち帰ったという仕事を遅くまでしていて、悠さんが布団に入ったのは夜中の2時だった。
本当なら今日から会えない分イチャイチャしたかったのが本音だが、疲れている悠さんにそんなことが出来るはずもなく。
「····あ··もう朝か··?」
俺が見つめていたことで目が覚めたのか、寝ぼけた声でそう呟く悠さんの頬に口付けた。
「ん、まだ大丈夫ですよ。あと一時間くらい寝れますから。」
そう言って髪を優しく撫でると「ん···」とまた目を瞑る。
暖かい身体にタオルケットを肩まで掛け、起こさないようにベッドから降りた。
サイドボードに置いてあった悠さんの携帯アラームをOFFにする。
時間ギリギリまで寝かせてあげたい。
いつも早く起き朝食を作ってくれる貴方に、今日は俺が準備をしてあげたい。
寝室の扉をゆっくりと閉めキッチンに向かったー。
「悠さん、起きてください。悠さん···」
ぐっすりと眠っている悠さんの肩を小さく揺らす。
「う、ん····?」
うっすらと目を開ける悠さんに微笑みかけ、その薄い唇に軽く口付けた。
チュッ····
「···おはようございます。よく眠れました?」
至近距離で囁くと、「ん、はよー···」と首に手を回された。
まだ覚醒しきっていないのかギュッと抱き着いてくる様子にクスッと笑いが溢れる。
そうしてその背中に腕を回し悠さんの身体を抱き起こした。
可愛い····
これが休みならこのまま押し倒すのに···
邪な考えに苦笑しつつ、バレないようにわざと意地悪く耳元で呟いた。
「早く起きないと遅刻しますよ?アラーム時間、とっくに過ぎてます。」
「······ッ、ヤバッ!」
「ふっ、ハハハ···!」
途端に弾かれたようにベッドから降りる悠さんに声を出して笑ってしまう。
慌ててTシャツを脱ぐのに「大丈夫ですよ。まだ余裕です。」と声を掛ける。
「朝食できてますから、そんなに慌てなくても大丈夫。着替えたらキッチンに来てくださいね。」
そう言って寝室から出ていこうとすると、後ろから照れたような声が聞こえた。
「···ありがとう、蒼牙。」
振り向くとはにかんだ笑顔の悠さんがこっちを見ていて。
上半身裸でそんな顔をしないでほしい···。
抑えている欲が出てこないように視線を逸らすと、「キッチンで待ってますね。」と言い残して部屋を出た。
「じゃあ、行ってくる。」
靴を履き立ち上がると、俺を振り返ってそう言う。
朝食をゆっくりと食べモーニングコーヒーも飲んだ悠さんはバッチリ仕事モードになっていて、男の俺が見ても格好いい。
サイドの髪を撫で付けスーツを着こなしたその姿は、どこから見ても出来る男だ。
「いろいろありがとうな。お陰で頭も冴えてるし、やる気も出た。」
ニッと笑うその表情に見惚れながら「気をつけて。」と返した。
俺の一番好きな笑いかた。
自信ありげな、でも嫌みのない笑顔。
暫くその笑顔が見れなくなるのかと思うと寂しいな···
本当は駅まで見送りたいが、俺も仕事があるし。
子供のようにシュンとなっているのが自分でも分かる。
「蒼牙」
「はい?····ッ!」
名前を呼ばれ顔を上げると、目の前に悠さんの男前な顔があった。
グイッと襟首を引っ張られ、驚く暇もなく唇に柔らかい感触が触れる。
チュッ··
軽く触れただけのキスに、思わず赤面した。
悠さんからの不意打ちに一瞬固まっていると、また重なる唇。
チュク、チュッ···クチ···チュッ、
今度は味わうように深く重なる唇に、俺も舌を絡めて応えていく。
「ん、蒼牙···」
キスの合間に聞こえる名前を呼ぶ声すら飲み込むように、深く口付る。
チュク···
離れた唇が名残惜しくてギュッと身体を抱き締めると、頭をポンポン···と叩かれた。
「よし、充電完了。お前も仕事頑張れよ。」
そう言って見上げてくる顔に、俺も自然と微笑むことができる。
「はい、悠さんも頑張って。行ってらっしゃい。」
額に軽く口付け、愛しい身体を離す。
「ん、行ってきます。」
踵を返し手を軽く上げると、悠さんは玄関を出ていく。
扉が閉まるのを確認し、思わず溜め息を吐いた。
···早く土曜になればいい。
やけに広く感じる部屋に戻りカレンダーを確認しながらもう一度溜め息を吐くと、俺も仕事の準備を始めたー。
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