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出張 おまけ

月曜日。 今日から始まる連勤に気合いを込めながら着替えているとスタッフルームの扉が開いた。 振り向くと内藤くんが入ってきていて、俺を見つけると「おはよう。」と挨拶をしてくれる。 「おはよう、お疲れさま。」 ニッコリと笑いながら返せば「うわぁ···」と渋い顔をされた。 「なに、感じ悪いなぁ。」 あからさまに寄せられた眉に文句を言うと、自分のロッカーを開きながら内藤くんが俺を見た。 「だってその笑顔。悠さんが帰ってきて嬉しいからって、極端すぎだろ。」 「·······」 言い当てられて返す言葉もない。 自分のテンションが先週に比べて高いことを自覚しているだけに「気を付けるよ。」と笑った。 「あぁ、そうだ。····はい、これ。悠さんから。」 ロッカーから預かっていた土産を取りだし差し出す。 本当は嫌味の一つでも言ってやろうと思っていたが『ちゃんと渡せよ。頼まれなくても買ってくるつもりだったんだから。』と釘を刺された手前、渋々渡す。 「やった!ありがとう!悠さんによろしく伝え····」 受け取りながら俺に顔を向けた内藤くんが、黙ってしまった。 だんだんと小さくなっていった言葉とは対照的に、どんどん赤くなっていく顔に、あぁ···と思い至る。 「見えた?」 「ッ!見えてない、見てない!俺は気付いてない!」 自分の首筋を指でトントン···と叩きニッと笑う。 まだ上まで留めていなかったワイシャツの隙間から、悠さんが刻んだ所有印が見えたのだろう。 ワタワタと慌てる様が面白い。 真っ赤になっていく内藤くんが可笑しくて「想像した?」とからかう。 「してない!」 「へぇ、ほんとに?」 一歩踏み出して近付くとジリジリと下がる。 「ほんとに!怖えーよ、その笑顔!」 そう言って顔を背けるその耳元に口を寄せると、俺は声を潜めて続けた。 「···今した想像より、もっと凄いよ。」 「··ッ!」 「俺の背中···見る?」 「·······ッ!!!」 クスクスと笑いながら身体を離すと、言葉を失った内藤くんがその場にしゃがみこんだ。 「くっそう··想像しちまった·····俺の中の綺麗な悠さんが汚されていく···」 泣きそうな声でそう言うのが可笑しくて、俺はついに声を出して笑った。 俺に黙って悠さんに土産をねだったのだ。 悠さんには悪いが、このくらいの仕返しは許してほしい。 「じゃあ、確かに渡したからね。」 「·····おう。」 きっちりと制服を着込み、鏡で首筋をチェックする。 見えていないことを確認するとロッカーを閉めた。 本当は見せびらかしたいくらいだが、そうもいかない。 「いつまでそこで凹んでるのさ。ほら、仕事行くよ。」 「·····おう。」 未だしゃがんだままの内藤くんに声を掛け、スタッフルームの扉を開く。 仕事が終わったら悠さんのいるマンションへ速攻で帰ろう。 『おかえり』と出迎えてくれる悠さんを想像し胸が暖かくなるのを感じながら、俺はフロアに入っていったー。

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