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花火と···友情?

(内藤くん目線) 朝から忙しい一日はあっという間に終わり裏口からホテルを出ると、先に仕事を終わらせて出ていた蒼牙と悠さんが立っていた。 待ち合わせていたのだろう二人はまだ俺に気付いていなくて、何かを話してクスクスと笑いあっている。 何となく声を掛けるのが躊躇われて、その場に立って二人を見つめた。 ···悠さん、あんな顔するんだなぁ。 蒼牙と話している悠さんは本当に嬉しそうで、優しく細められた目やフワッと笑う口元···女顔ではないのにその表情はとても綺麗に見えた。 俺がいるときにはあんな顔は見せないから、あれは蒼牙だけに見せる顔なんだと思う。 そして向かい合った蒼牙はというと、こっちが照れてしまうくらい甘い顔で微笑んでいて。 あれを店に来る女性客に見せたらとんでもないことになるだろうな。 あの二人がラブラブなのは知っているし、情事の痕やらキスシーン(未遂)やら···赤面してしまう場面にも遭遇してきた。 でも見ているこっちが暖かい気持ちになるくらい二人は幸せそうで、そんな二人が俺の友人なのだと思うと少し···いや、かなり嬉しい。 「あ、内藤くん来たぞ、蒼牙。」 俺が見ていたことに気づいた悠さんがそう告げると「····はい。」と少しテンションが下がった声で返事をする蒼牙。 まてまて、俺は何もしてないぞ。 明らかに邪魔者扱いされてる感があって苦笑してしまう。 普段はあんなにフレンドリーなのに、こと悠さんに関しては蒼牙は浮き沈みが大きい。 そして俺が悠さんと仲良くすればするほど、子供のように拗ねる。 それが可笑しくてついからかうと痛い目に合うのは俺なのだが···。 「お疲れさま。あのね、悠さんが花火を一緒にどうかってさ。···忙しかったら断ってくれて構わないよ?」 むしろそうしろと言わんばかりの顔でにっこりと笑う蒼牙に一歩下がってしまう。 こえーんだよ、美形の微笑みって。 「花火?」 「お疲れ、内藤くん。これから公園で花火でもしようかと思って持ってきてるんだけど、内藤くんもどう?」 「こんばんはー、悠さん。え、俺も良いんですか?」 思わぬ誘いに少しウキウキしながら問うと、悠さんはニッと笑った。 いつもは大人の自信に満ちたその笑顔が、今は悪ガキの笑顔のように見える。 「もちろん。こういうのって、みんなでするほうが楽しいだろ?」 そう言って片手を掲げて見せる。 その手には袋に入った数種類の花火と小さなバケツ。 「ほら、早く行こう。」 「ああ、待って。悠さん···」 先頭をきって歩き始める悠さんの後ろから、蒼牙がヒョイっとその荷物を奪う。 そして耳元に何かを囁き、途端に真っ赤になる悠さんに笑いかけると俺を振り向いた。 「どうしたの、早くおいでよ。」 「ははは····」 そのキラキラした笑顔と赤くなった悠さんを見比べて、乾いた笑いが出た。 蒼牙のあの笑顔にはもう慣れた。 俺が行くことを条件にろくでもないことを提案したのは間違いなくて、悠さんのためにいっそ断ろうか···とまで思ってしまう。 けどなぁ、この二人といるの楽しいんだよな。 結局自分の欲には勝てず、俺は二人の後を付いて行った。 「····こいつ、ホントに可愛いですか?」 「····可愛くない··ときもある。」 そうして悠さんの隣に並び小さな声で訊ねる俺に、悠さんは未だ赤い顔のまま呟いたー。 「おわっ!危ないって!」 「あははは!油断したらダメだよ。って、うわっ!」 「お前もだろ。」 広い公園の一角、花火もOKな場所を陣取った。 周りにはジョギングをしている人や俺たちのように遊んでいる若者、それにベンチで休むカップルなんかがいて、思ったよりも人が多い。 蒼牙に花火を向けられ(良い子はマネしちゃダメだぞ)慌てて逃げる俺。 それを見て大笑いする蒼牙。 そしてその蒼牙に花火を向ける(絶対マネしちゃダメだぞ)悠さん。 思った以上に盛り上がる花火に、子供のようにはしゃいでしまう。 いい大人が何やってんだかとも思うが、楽しいものは楽しい。 周りの迷惑にならないように配慮しながらも大きな声で笑う悠さんが珍しくて、ついつい見てしまう。 「何だ?」 「いや、悠さんがそんな風に笑うの初めて見るなって。」 「そうだな、こんな遊び久し振りだから楽しいよ。はい、点けるか?」 そう言って悠さんは、にかっと笑いながら火の点いた花火を差し出した。 それに持っていた花火を近付け点火すると後ろからバシッと頭を叩かれた。 「イタッ!何だよ、急に!」 振り向き様文句を言うと、拗ねた様子の蒼牙が立っていた。 「····特別だからね。」 「は?何が?」 言われた意味がわからなくて頭を擦りながら問い返すと、蒼牙は意気揚々と次の花火を選んでいる悠さんを指差して言った。 「こんなに可愛い悠さん、本当なら誰にも見せたく無いんだから。」 「「···バカだろ、お前。」」 思わず呟いた言葉は悠さんと重なる。 それが可笑しくてゲラゲラと笑うと、蒼牙が「二人して酷くないですか?」と余計に拗ねてしまった。 「な?こういうところが可愛いんだよ。」 本当に楽しそうに笑いながら俺にそう言うと、悠さんは蒼牙に近づき引き寄せると何かを囁いた。 俺に聞かれないように耳元に口を近付ける姿が何となくエロくて、ついつい赤面してしまう。 そんな俺の様子に気づくことなく蒼牙から身体を離すと、悠さんは「トイレに行ってくる。」と一言告げ行ってしまった。 「····ついて行かないのか?」 何となく一緒に行くだろうと思っていたのに大人しく見送っていることが不思議で、隣に立っている蒼牙に声をかけた。 「うん?行かないよ。すぐそこだし、あんまり見られたくないとこでしょ?それに···」 「それに?」 「内藤くんにお礼言いたかったし。」 「····なんの?」 思わぬ言葉に首を傾げた。 お礼を言われるようなことをした覚えはないし、どちらかというと誘ってもらったこっちがお礼を言いたいくらいだ。 「うん。今日、来てくれてありがとう。悠さん、本当に楽しそうにしてるから。」 「····え、」 「あの人、内藤くんのことすごく気に入ってるからさ、ぶっちゃけ俺としては複雑なとこもあるけどね。でも俺も内藤くんのことは好きだから、こうやって一緒に遊ぶのは楽しいよ。」 「え、ふぇ!?」 真っ直ぐに俺を見てそんなことを言う蒼牙に、思わず変な声を出してしまった。 「なに、その声。」 ケラケラと笑うと、もう一度「だから、ありがとうね。」とお礼を言われた。 正直、ビックリしている。 まさか蒼牙がこんな風に言ってくるとは思っていなかったし、『邪魔だよ』くらいは平気で言い放つヤツだ。 それに···あの悠さんが俺を気に入ってくれてるっていうのも、蒼牙が言うんだから本当なのだろう。 ···ヤバイ、どうしよう。 スゲー嬉しい。 感動してすぐには返事が出来ないでいると、悠さんが戻ってきているのが見えた。 蒼牙もそれに気づいているらしく「あ、帰ってきた。」と傍目でも分かるほど尻尾を振っている。 早く、早く俺もちゃんとお礼を言わないと。 「そ、蒼牙!」 「ん?」 「俺も好きだ!」 「な、」 「········は?何の話だ?」 ·······あれ? なんか間違ったぞ。 慌てて言葉を紡いだら、何だか告白みたいになってないか····? しかも、悠さんまで聞いてるし! 「····ッ!違う!告白じゃなくて、だから、ほら、あれだ!」 俺を見て眉を寄せる蒼牙と、話題が分からないと首を傾げる悠さんに、手を振りながら言い訳を探す。 「俺、悠さん以外眼中にないから。」 「分かってるよ!そうじゃなくて!」 「ごめんな、内藤くん。流石に蒼牙は譲れないよ。」 「悠さんまで!いりませんから!」 青ざめる俺とは正反対に面白がっている二人。 からかわれていることに気づかないほど、この時の俺は慌てていて。 「まさか親友から告白されるなんて···明日から仕事がやりにくくなるね。」 ため息混じりにそんなことを言われて、俺はその場にしゃがみこんだ。 「違うから!いや、言ったことは間違ってないけど、意味が違うから!」 それから暫くの間···二人は存分に俺をからかい、蒼牙に「うるさい。」と頭を叩かれるまで俺はギャーギャーと喚き続けていた。 二人のことが大好きな俺。 俺のことを気に入ってくれている悠さん。 親友と恋人が仲良くするのを複雑な気持ちで見守る蒼牙。 いつまでもこんな関係が続けば良い。 花火をかざしながら、そんなことを思ったー。

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