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初対面

(木内さん目線) 「木内、これ篠崎に渡しといてくれ。」 残業中に部長から声を掛けられ振り向くと、手に土産らしきものを持っている。 「良いですけど、部長から直接渡したほうが良いんじゃないですか?今日はもう篠崎はあがってますから、明日にでも。」 受け取りながら伝えると部長は「そうなんだがな、」と続けた。 「明日は朝から会議とそのまま出張だから、篠崎に会えるかわからないからな。今日はアイツが忙しくて渡せなかったし。」 そう言うと部長は「じゃ、頼んだぞ。」と去ってしまった。 残された土産を見てため息を一つ吐く。 明らかに冷蔵庫に入っていたと思われる温度。 これ、早く渡さないとダメなヤツじゃないか? 篠崎はもう帰ったし、今から取りに来いというのもな···。 引っ越しをしてから、アイツのマンションはここからかなり近くなった。 ···仕方ない、届けてやるか。 俺は残りの仕事を手早く終わらせると、荷物をまとめて退社したー。 篠崎のマンションの前で思っていたよりも綺麗な造りをしていることに感心する。 引っ越しをする前は学生アパートのようなところに暮らしていて、安いだろうけどもっと違う場所に行けば良いのにと思っていた。 入社した頃からの付き合いだが、篠崎はあまり物や人に執着しない質で派手な暮らしを好む方ではなかった。 付き合う恋人のことは大切にしていたが、遊び回るタイプではないからそこが物足りないと言われたこともあったようだ。 周りのことには気を使うくせに自分の事になると無頓着。 意外と男らしい性格で、曖昧なことを嫌う。 そんな篠崎と俺は見た目も性格も全然違うが、なぜか気が合い付き合いも深まっていった。 何度か女を紹介したこともあったが、真面目なアイツが遊ぶだけの関係を作るはずもなく。 ところが、今年に入ってすぐ篠崎に変化が起きた。 もともと仕事はできるヤツだったが、更にハキハキと働くようになり笑顔も増えた。 雰囲気も柔らかくなり、言葉は変だが妙に色っぽくなった。 キスマークを発見したときにはかなり驚いたが、恋人ができて充実した日々を送っているのだろうと、友人として嬉しく思ったものだ。 ····まさか、相手が男だとは思わなかったがな。 引っ越し祝いで贈ったナース服の一件から、篠崎から恋人のことを聞き出した。 顔を真っ赤にして話す姿が印象的で、この真面目な男がどんな顔してあのナース服を着たのか···と興味をもったほどだ。 俺に対して怒りながらも恋人のことを話すアイツは嬉しそうで、男同士であることを恥じている様子は感じられなかった。 確か、年下で綺麗系で背が高い···だったよな。 花見の時に話していたことを思い出しながら、マンションのエレベーターを待つ。 今から行くことを電話で伝えると『わざわざ悪いな。助かるよ。』と言っていた。 もしかしたら嫌がるのではないかと思っていたが、篠崎は酒でも用意しとくよ···と笑っていた。 エレベーターの到着音と共に開いた扉に乗り込む。 ボタンを押して閉めようとすると「すみません、乗ります。」と声が聞こえた。 入り口に目を向け、俺は固まった。 ····スゲー美形。 美形なんて言葉、初めて実感した。 俺も職場ではイケメンで通っているし、篠崎も俺とはタイプの違うイケメンだ。 だけど『美形』という言葉は当てはまらないと思う。 「ありがとうございます。」 「何階ですか?」 「····一緒です。」 エレベーターに乗り込んできた美形くんは俺の押していた階数を確認してニコッと笑った。 俺よりは若く、高い身長。 そして、類を見ないほどの美形···これ綺麗系だよな。 そして階まで同じということは··· 「あの···もしかして、木内さんですか?」 俺が声をかけるよりも先に、その美形くんは俺の名を呼んだ。 ···あぁ、やっぱりか。 「違いますか?」 「···いや、合ってる。君が篠崎の?」 名前までは聞いていなかったので、曖昧な尋ねかたになってしまう。 それでも彼は嫌な顔せず、むしろ嬉しそうに笑った。 「はい。秋山って言います。」 秋山と名乗った美形くんは「来てくださって、ありがとうございます。」と丁寧にお礼を言った。 と、同時にエレベーターが目的の階を告げ扉が開く。 「どうぞ」 扉を押さえ、俺に先に降りるように促す秋山くんにお礼を言い振り向く。 秋山くんの手にはコンビニの袋があって、中には酒やツマミが入っているようだ。 「秋山くん、それ···」 「悠さんから頼まれました。木内さんが遊びに来るから、好きなもの用意してあげたかったみたいです。あ、そこの部屋です。」 コンビニ袋を掲げ笑いながらそう言うと、秋山くんは俺の後ろの部屋の扉を指差した。 見た目は派手というか遊んでいても不思議はないのに、俺に対する態度や口調は丁寧だ。 ···まぁ、篠崎が選ぶくらいだからな。 中途半端なヤツを選ぶとは思わないが。 そして篠崎の態度を見れば、アイツが本気の付き合いをしているということも分かる。 だけど心配してしまう気持ちもあって。 男同士というリスクを抱えた恋人。 篠崎が心変わりしたり、世間体を気にして捨てたりすることはないだろう。 だけど···コイツはどうだろうか。 この見た目だ。 わざわざ男を選ばなくても、不自由することはないはず··· ····· ··········· 扉の鍵を開けるその姿を見つめながら思考を巡らせる。 もし、ただの遊びや興味本意の付き合いだというのなら許さない。 だからどこまで本気で付き合っているのか···篠崎には悪いが確認させてもらう。 「どうぞ、あがってください。」 「あぁ、ありがとう。お邪魔します。」 にこやかに返事をしながら玄関をくぐる。 綺麗に整理された玄関に靴を揃えながら、俺は心を固めたー。

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