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新たな出会い···?
side 蒼牙
遅番の今日。
レストランからbarへと雰囲気を変えた店内で、来客に笑顔で接客していく。
週末とあって平日より客足も多く、照明を落とした店内に流れる落ち着いた曲と、穏やかに会話を楽しむ人達の声が混ざる。
「見たか?メチャクチャに華やかな客がさっき入って来たぜ!」
同僚の興奮した声を背後に聞きながら、注文されたカクテルをカウンターから受けとる。
「マジで?注文取りに行ってみたいかも。」
内藤くんがウキウキした声で受け答えしているのが可笑しくて、思わず笑ってしまった。
「芸能人じゃあるまいし、そんなに浮き足立たないで下さいよ。」
「芸能人より派手だって!秋山も見てみろよ。」
俺がクスクスと笑いながらそう言うと、同僚は一つのテーブルを指差した。
そこは他のテーブルとは少し離れた場所にある予約席で、回りに配置された観葉植物とピアノが邪魔をしてよく見えない。
「予約席じゃないですか。あそこに通したんですか?」
かつて俺が悠さんのために勝手にキープした予約席。
別に予約は入っていないから良いけど。
「だって、『一番良い席をお願いね。』って微笑まれたんだ!あんな美人に頼まれたら断れねーよ!」
「いや、まぁ俺は良いんですけどね。」
わたわたと言い訳をする同僚に苦笑しつつ、内藤くんにメニューを渡す。
「はい。じゃあ注文とってきて。俺はこっちを運ぶから。」
「おう!」
ニコニコと受け取る内藤くんに笑いかけ、俺は予約席とは反対側のテーブルにカクテルを運びに行った。
その時、
····なんだ?
視線を感じる。
仕事中に視線を感じることは多く慣れているつもりだが、今回の視線は少し違う。
背後から感じるその違和感に思わず振り返り、俺は固まった。
····ちょっと待って。
何で一緒にいるの?
動揺して思わず声を上げそうになるのを堪え、とりあえずはカクテルを運ぶことに集中する。
予約席からヒラヒラと手を振る蓮華さんと、ニヤニヤと楽しそうな清司さん。
困ったように笑うナオ。
そして····顔を真っ赤にさせ俯きがちな悠さん。
一体何があったのだろうか。
俺から視線を外しているように感じるのは気のせいではないと思う。
『サプライズで現れるってドキドキしない?』
電話の向こうで言っていた母親の言葉を思い出す。
···確かにビックリはさせられたな。
まさか悠さんまで連れて来るとは思ってなかった。
逸る心を落ち着かせながら、俺はキッチンへと戻っていったー。
「内藤くん、ちょっと外すね。」
仕事の合間、暇を見つけて内藤くんに耳打ちをする。
「え、あ、あぁ。あのさ···悠さんと一緒に来ている人達、あれってお前の身内?」
顔を赤らめた内藤くんが、予約席を指差して言った。
どこか上の空なのは気のせいだろうか···?
「そうだよ。母親と叔父、それと妹。」
「まじか!姉妹じゃなくて、母親と妹!?で、どっち!?どっちが妹!?」
目を見開いて鼻息荒く聞いてくるその姿に、シーッと指を口元に持っていった。
「声が大きいよ。ショートの方、あっちが妹。」
「よっしゃ!!」
俺がナオを指差すと、内藤くんは小さくガッツポーズをとった。
何が『よっしゃ』なのか。
なんとなく嫌な予感がするけど。
それよりも···
「···とにかく、ちょっと外すから。」
未だ「よしっ!よしっ!」と呟く内藤くんの肩を一つ叩くと、俺は予約席へと足を向けた。
悠さんは自分で解決したいと言っていた。
こうして一緒にいると言うことは、もう話し合ったのだろうか。
俺が母親と争うところは見たくないと言ってくれたが、俺は正直なとこ蓮華さんに対して怒りを覚えている。
例え母親でも、悠さんを傷付けるようなことを言ったのは許せない。
「いらっしゃい、悠さん。····で、これはどういうこと?」
たどり着いたテーブル。
愛しい恋人を笑顔で迎え、視線を母親に向けた。
「····蒼牙が怒ってる。」
「な、珍しくて面白いだろ?」
ボソッと呟いたナオの声と、そんなナオに耳打ちする清司さん。
この二人がいることはとりあえず置いといて、蓮華さんに説明を求めた。
「そんなに怖い顔しなくても、もう悠くんとは話したわよ?」
「···だから、いったい」
「蒼牙、」
ニコニコと本当に嬉しそうに話すその様子に、心の中で舌打ちをした。
僅かな苛立ちを感じながら口を開くと、悠さんが俺の名前を呼ぶ。
「何ですか?」
「···············あ、愛してる、よ。」
「····ッ!」
戸惑いながらも呟かれた言葉と真っ赤に染まった悠さんの顔。
本当に、いったい何を話し合ったのか。
ひどく満足そうな母親。
面白くなさそうな表情の清司さん。
「キャー‼」と小さく叫び喜ぶナオ。
訳が分からなくて頭の中はグチャグチャだが、沸き上がってくるのは喜びで。
「···ありがとうございます。俺も愛してますよ。」
見上げてくる悠さんの頬をするりと撫でながら、俺は微笑んだー。
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