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新しい朝
side 悠
「笑わないで聞いてくれる?」
蒼牙の真剣な眼差しに見つめられ、コクリと頷いた。
さっきまであんなに俺のことを攻め立てていたクセに急にこんな風に穏やかな顔を見せるから。
その表情が男らしくて、思わずドキッとしてしまう。
「···貴方のことを絶対に守るから。だから···一生側にいて。」
「!!」
心臓が大きく跳ねた。
真っ直ぐに見つめてくる深い蒼。
ゆっくりと頬を撫でられて、その手に手を重ねた。
「···プロポーズみたいだ。」
思わず呟いた言葉に蒼牙はクスッと笑った。
「『みたい』じゃなくて、プロポーズだよ。」
「·····ッ、」
どうしよう、声がでない。
「俺ね、前は『悠は俺のものだ』って周りに見せつけたくて『結婚できたらいいのに』って言ったんだ。」
蒼牙の言葉でホタルを見に行った時のことを思い出す。
そうだ、あの日『一緒に暮らそう』と俺が伝えた。
「だけど今は違う。それだけじゃなくて、俺には貴方が必要だから···悠と一緒に生きていきたい。側にいて欲しい。幸せにしたいと思うし、一緒に幸せになりたい。」
蒼牙の言葉の一つ一つが胸に刻まれる。
『一生側にいたい、いて欲しい』なんて···傲慢だと思ってた。
自分勝手な考えだと、そう思ってた。
でも、許されるのだろうか。
こうして蒼牙が必要としてくれているのだから···
「愛してる···だから、俺と結婚してくれますか?」
茶化すでもなく、真剣に伝えてくるから。
いつもは温かい指先が今はひんやりと冷たい。
蒼牙も緊張しているのかもしれない···そう思うと堪らなくなって。
「っと、」
気づけば蒼牙に抱き付いていた。
ソッと背中に回された腕が暖かい。
「悠···返事は?」
耳元に聞こえる優しい声に涙が出そうだ。
「···ありがとう、俺も蒼牙の側にいたい」
それだけしか言えなくて、俺は抱き締めたまま何度も頷いた。
「良かった···これからも、いっぱい笑って、悩んで、助け合って、たまにはケンカもして···そうやって一緒に生きていこう。」
嬉しそうな、本当に嬉しそうな声で囁くと、蒼牙は俺を強く抱き締めたー。
「くそっ···先越された。」
翌日。
目が覚めると隣には蒼牙の姿はなくて。
キッチンへと向かうとコーヒーを淹れてくれていた蒼牙が「おはようございます。」と微笑んだ。
「たまには俺だって早起きしますよ?それに···」
「はい、どうぞ。」とマグカップを手渡すと蒼牙はニッコリと笑った。
「それに悠さん、身体辛いでしょ?」
「·····ッ!」
顔が一気に熱くなる。
昨夜、蒼牙からのプロポーズに感動してしまった俺は、抱き締められたまま押し倒されても抵抗しなかった。
むしろ蒼牙をもっと感じたくて、溢れる想いを伝えようと俺から何度も口付けた。
そうして互いの温もりを共有するかのように、穏やかに、ゆっくりと愛し合った。
···までは良かったが、結局最後には蒼牙の熱に翻弄されてさんざん喘がされた。
おかげで喉はカラカラだし、身体は怠い。
でも···心はすごく満たされている。
「俺だって、無理させた奥さんを労って朝御飯作るくらいの甲斐性はありますよ。」
クスクス笑う蒼牙につられテーブルに視線を向けると、そこには美味しそうな朝食が用意されていて。
「ありがとう···蒼牙。」
素直に礼を言うと蒼牙は照れたように笑った。
····でも、ちょっと待て。
「····奥さん?」
蒼牙の台詞に引っ掛かって聞き返すと、食パンをトースターに入れていた蒼牙が嬉しそうに振り返った。
「はい。『奥さん』です。」
「···お前が『奥さん』でも良いだろ。」
気持ちで結婚はしたが、男で『奥さん』ってのはどうか。
少し眉を寄せると蒼牙は意外そうな顔をした。
「え、でも、悠さんがいつも食事用意してくれるし。」
「蒼牙は掃除と洗濯してくれる。」
「悠さん可愛いし。」
「お前だってカワイーときあるだろうが。」
負けじと返すと蒼牙はニッコリと笑って口を開いた。
「セックスの時は、悠さん下だし。」
「なっ···それは!!」
返す言葉が見つからない。
真っ赤に染まった顔で睨み付けるが、威力なんて微塵もないのだろう。
ニコニコと上機嫌の蒼牙は今にも鼻歌でも歌いそうだ。
「ね?悠さんが『奥さん』でしょ?」
立ち尽くす俺に近付くと、腰をグッと引き寄せる。
「これからもよろしくお願いします、悠さん。」
そう言って口付けてくる蒼牙に内心でため息を吐いた。
まるで、尻尾をブンブンと振っているのが見えるようで。
本当に幸せそうに微笑むものだから、怒る気にもならない。
仕方ない。
そんなコイツが可愛いと思ってしまうのだから、『奥さん』でもいいかー。
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