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新たな出会い2

(内藤くん目線) 先週末、俺は人生で一番の衝撃的な出会いを果たした。 同僚の言う『めちゃめちゃ華やかな客』に注文を取りに行くことになった時のことだ。 どれどれ、どんだけ華やかか見てやろうじゃないの。 なーんて考えながら向かった先には男二人、女性二人が座っていて。 よく見たら男の一人は悠さんで。 珍しいな、女の人と一緒って···なんてことを思いつつメニューを差し出し、受け取った相手の顔を見た瞬間。 雷が落ちたような衝撃が俺を襲った。 「ありがとうございます。····あの、」 「え、あ、申し訳ございません!」 手渡したもののメニューから手を離していないことに気が付き、慌てて引っ込める。 「ナオちゃん、どれでも好きなの頼みなよ。」 「うん。ありがとう、清司くん。」 悠さんの隣に座っていた男の声に、彼女が『ナオちゃん』という名前であることを知った。 細くて白い手··· 座っているけど、おそらくは高い身長··· ショートの髪は緩やかにパーマがかかっていて、キリッとした印象を受ける切れ長の瞳···だけど笑うとその目元が優しくなって、スゴく可愛い··· フワフワ系でも、キャッキャ系でもない中性的な雰囲気··· やっばい、これ。 超ドストライク。 え、なに、天使? 女神様降臨? 「···くん、内藤くん。」 「ッ、はい!」 名前を呼ばれてハッとした。 見れば悠さんが訝しんだ表情で俺を見つめていて。 あれ? なんだか顔が赤いけど、暑いのかな? 「大丈夫?注文いいかな?」 「はい、もちろんです。···申し訳ございませんでした。」 そうだった、仕事中だった。 いかんいかん、頭を切り替えないと! 自分を叱咤しつつオーダーを受ける。 そうして去り際。 後の二人にも目を向けて俺はこの世の不公平を呪った。 スッゲーな。 絶対に蒼牙の血縁者に違いない。 美形の家族はやっぱり美形なんだな。 俺なんかどうせミジンコですよ。イモムシですよ。 「あ、すみません。···チーズケーキもお願いします。」 呼び止められ後ろを振り返れば、女神様がニッコリ笑って言った。 なんて可愛い声。 控え目に告げられたオーダーが最上級のデザートに思える。 こんな時間に、お酒と一緒にケーキ食べるんだ。 太る··とか、気にしないのかな。 でも俺はたくさん食べる女の子大好きです。 「かしこまりました。少々お待ちください。」 こんなに綺麗なお辞儀したことない。 それほど丁寧かつ優雅に一礼し戻っていった。 だって相手は女神様ですから。 それから数分後。 あのこが蒼牙の妹だと知った時の俺の喜びようときたら、自分でも笑えるほどだったー。 「おっはよう、蒼牙!」 「おはよう、内藤くん。」 週明け。 今日は蒼牙と勤務が重なっている。 もうこれは聞くしかないでしょ!ナオちゃんのことを!と意気込んで蒼牙に声を掛けた。 そして俺は瞬時に後悔した。 振り向いた友人の満面の笑顔に。 あ···俺のメンタルもつかな··· 100%の確率でのろけられる。 これは、その笑顔だ。 「あ、そうだ。内藤くん、今日飲みにいかない?暇でしょ?」 スタッフルームで着替えながら声を掛けられ、思わず振り向いた。 「勝手に暇とか決めん··な···」 「···なに?···あぁ、これ?」 赤面し語尾が小さくなっていく俺を不審がった蒼牙が、ニッと笑いながら腕を見せた。 そこには明らかな引っ掻き傷が2本。 よく見れば背中や肩にも数本、治りかけのものから新しいものまで。 反対の腕には内側にキスマークもあった。 「お前な···もっと恥じらえよ!」 「え、何で?」 あまりにも堂々と見せつけられ、思わずツッコンでしまう。 何で?じゃねーよ。 当たり前だろ···って言っても通じない相手なのは俺もよく知っている。 そんなことより··· 悠さんは男前、カッコいい、真っ白、清らかだから! だからあんな痕残さない! あれは···そう、ネコ!ネコの仕業! 「···うち、ペット禁止なんだけど。」 「読むなよ!人の思考を!」 一生懸命自己暗示かけてるのに、蒼牙に打ち砕かれてしまった···。 チラリと見ればニコニコと嬉しそうな蒼牙。 まぁ、幸せなのは何よりだ。 「それで?今日行けるよね?」 俺の都合は丸無視の蒼牙に苦笑しつつ頷く。 ほんと、俺を逞しく産んでくれてありがとう、母さん。 「いいよ。だけどギブアンドテイクだからな、蒼牙。」 「は?」 俺は蒼牙を指差してニッと笑った。 聞いてやろーじゃないの、ノロケでも何でも。 その代わり、蒼牙も俺に情報提供してもらう。 そのくらいのことしてもらわないと割りに合わない! 「よっしゃ、それじゃあ今日も一日頑張りますか!」 「何をそんなに張り切ってるんだか。」 気合いを入れる俺と、クスクス笑う蒼牙。 夜には手に入る(と思う)『ナオちゃん』情報を楽しみに、俺はフロアに入ったー。

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