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ギブアンドテイク

仕事が終わり向かった焼き鳥屋で、鳥串を食べながら話す蒼牙。 カウンター席で隣に座っている姿をチラリと見つめ、その表情を読んだ。 どうやら先週末の女神様降臨には俺が思った以上の問題があったらしい。 詳しくは話さないが、軽い口調で話しているわりに笑わない蒼牙の雰囲気から、そんな風に感じた。 「色々あったけどね、それらは全部片付いたんだ。」 簡単に話し終えてやっとニコッと笑う蒼牙に、ちょっとだけ安心する。 初っぱなからノロケられると思っていただけに真面目に話されると緊張してしまっていた。 俺には分からないが、男同士っていうのはやっぱり色々と問題が起きてしまうのだと、思わずため息を吐いてしまう。 蒼牙と悠さんを見ていていつも思う。 二人は本当に幸せそうで、そして支え合っていて。 お互いを大切に想い尊重し合っている。 きっとこの二人ならどんなことがあっても乗り越えていけるだろうと、そう思わせる。 だけど···だからといって傷付かない訳がないし、壁にぶつかって欲しいとも思わない。 大切な友人達だからこそ幸せでいてもらいたいし、バカみたいに笑っていて欲しい。 隣でビールを傾ける蒼牙に視線を向けた。 今はこんなに穏やかだが、きっとかなり葛藤したに違いない。 俺は何もできないけど、それでも祝ってやることはできるから。 「詳しくは分からないけど、悠さんとのことを認めてもらえたってことだよな?···良かったな、蒼牙。」 そう言ってジョッキを掲げて見せると、蒼牙も同じように掲げニッと笑ったー。 「それで···プロポーズは成功したと。」 「うん、流石に緊張したよ。でもギュッで抱きついてきて、めっちゃ可愛かった。」 「·············良かったな·····。」 軽く乾杯を済ませたあと始まったのは、やっぱり盛大なノロケで。 キラキラとした蒼牙の声が容赦なく俺を襲う。 前ふりが真面目な話だっただけに、その攻撃力は凄まじいものがあった。 「あんなに男前な性格なくせに可愛いなんて詐欺だよね。ほんと、毎回やられっぱなし。ぜんぜん勝てる気がしない。我慢するつもりだったけど、その後でもう一回頑張っちゃった。」 「········もう一回って···」 「内藤くんが見つけた腕の傷は、その時のやつだね。」 ニコニコしながら話す蒼牙の横で頭を抱える俺。 確か、引っ越しの話が出たときにも『お嫁さんにもらった』とかなんとか言ってなかったか!? それが何、今度はプロポーズ!? 順番が逆だろ! ·····いや、違う。 そうじゃない。 俺が突っ込むべきとこはそこじゃない。 そこじゃないと思う···· 「······俺の理想を返せ···」 何でコイツはノロケだすとこんなにデレるのか。 そしてただデレるだけならともかく、『ベッドの中の可愛い悠さん』まで話すのか···。 世の中のノロケってこんなに明け透けなものなのか? 俺がおかしいのか? ·····いや、絶対コイツがおかしいだろ! 「そんなに凹まないでよ。別に理想は壊してないよ。あの人、本当に格好いいから。」 「だよな!悠さんは大人で爽やかな男だよな!」 クスクス笑う蒼牙にすがるように視線を向けると、いたずらっ子のような表情で俺を見ていて。 「ただ、スイッチ入ったら情熱的なだけで。」 「···!!お前なんか嫌いだ!」 半分泣きたいような気持ちで睨むと、ゲラゲラと笑われた。 「えー俺は好きなのになぁ、内藤くんのこと。」 そう言って鳥串をつまむと「はい、あーん。」と俺の口元に差し出してきた。 ガチャン···! 「きゃっ!ごめんなさい!」 「ゲホッ、ゲホッ···ウェッホ!し、失礼···ゲホッ」 「···え?」 カウンターの向こうで忙しく働いていたお姉さんが食器を落とし真っ赤な顔で謝り、焼き鳥を焼いていたオヤジさんが盛大にむせる。 ·····見られてるんじゃねーか! もうやだ···これだから顔の良いヤツは·· 頼むから自分が目立つという自覚を持ってくれ! めっちゃ恥ずかしいから(泣) 「食べないの?美味しいよ?」 それはそれは楽しそうに笑いながら「ほらほら。」と口元に差し出してくる鳥串を奪い取る。 「自分で食べる!くっそう、覚えてろよ。悠さんに言いつけてやる!」 「それは困るなぁ。まだ悠さんに『あーん』はしたことない···いや、したかな?知ってる?内藤くん。」 「知るか!どうでもいいわ!」 首を傾げる蒼牙に言い捨て俺は奪った鳥串を頬張った。 確かに美味しい。 美味しいけど、なんか···なんだかなぁ(泣) 「そんなに怒らないでよ。ナオのこと知りたいんでしょ?」 「ゴホッ!··な、なんで、それ··!ゲホッ、」 完全に不意を突かれて思わず咳き込む。 「大丈夫?」と背中を擦られ、赤くなる顔を手で隠しながら「わりぃ、大丈夫。」と返した。 蒼牙の声が笑っていることは気にしない! 「ほんとに飽きないね、内藤くんは。分かりやすすぎて面白い。」 「う···、」 「で、ナオの情報いるの?いらないの?」 「是非お願いします!」 ガバリ!と頭を下げ蒼牙に頼み込む。 そう、今日はこの為に来たのだから! 蒼牙のノロケだろうが、からかいだろうが、何だって耐えますよ!この為ならば! 「仕方ないな。高くつくからね。」 「う、それでもお願いします!」 意地悪く笑う顔さえ美形なんだから本当に腹立たしいが、これも女神様のため。 蒼牙にメニューを渡しながら期待を込めた目で見つめる。 「ま、頑張ってね。」 一言呟くと呆れたように笑い、蒼牙はナオちゃんについて話はじめてくれたー。

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