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新婚さん

あれから一週間。 どうやらナオちゃんから了承を得たらしく、内藤くんに連絡先を教えたと蒼牙から聞いた。 そしてやってきた週末。今日はナオちゃんが遊びに来て、四人で食事をすることになった。 居酒屋に行っても良いが『蒼牙と悠さんのマンションに行ってみたい』という要望で、うちで鍋パーティーを開くことにした。 「寒くなったし、おでんなんかどうですか?」 午前中に蒼牙と二人で買い出しに出掛けスーパーの中を回っていると、買い物かごの乗ったカートを押しながら蒼牙がのんびりと言う。 「それもいいな。帰ってすぐに作れば、夕方には味も染みてるだろうし。」 種類豊富なねりものを手にとり答えると「やった!」と嬉しそうな声が聞こえた。 蒼牙は基本的になんでも食べるし、好き嫌いもない。ただ身体がでかいだけあって、食べる量はけっこうなものだ。おでんにするのなら具材をたくさん買わないとならない。 「卵とジャガイモたくさん入れて下さい。あとロールキャベツをお願いします。」 「····ロールキャベツ入れるのか?」 「え?入れませんか?」 「篠崎家では入ってないな。」 「美味しいですよ。ぜひお願いします!」 そう言って頭を下げる蒼牙にクスクスと笑い、出来上がっているロールキャベツを選んだ。 家庭によって入れるものが違うことが面白くて、色々と選びながらかごに食材を入れていった。 その他の必要品も買うとかなりの量になってしまったが、蒼牙がいるから大丈夫だろう。 「うちの奥さんは料理上手なんです。」 「な、」 レジで会計をしていると背後から蒼牙のそんな声が聞こえてきて、慌てて振り向いた。 そこには順番待ちをしていた年配の女性がいて、重たいかごをレジカウンターに乗せるのを手伝っていたらしい蒼牙がにこやかに会話をしていた。 接客業だけあって社交的なその姿に感心するも、話している内容は恥ずかしいもので。 「まぁ、新婚さんなのねぇ。羨ましいわ。」 「はい。今日はおでんを作ってくれるので今から楽しみにしているんです。」 「あらいいわね。うちの主人なんか何を作っても喜ばないのよ。可愛くないでしょ。」 「そうなんですか?うちは何を作ってくれても最高に美味しいから、そのうち太りそうです。」 「いいわねぇ、幸せ太り。奥さんを大切にしないとバチが当たるわね。」 「はい。」 談笑を続けているのが聞こえて、どんどん恥ずかしくなってくる。 あいつ、恥ずかしいことをペラペラと···! 聞こえないふりをしてガサガサと袋に食材を入れていると「それでは、失礼します。」と挨拶をして戻ってきた。 「ごめんなさい、俺も入れますね。」 「ん、」 空の袋を手渡し、おそらく赤くなっているだろう顔を隠すように下を向く。何となく気恥ずかしくて黙って袋詰めをしていると、すぐ横に立っていた蒼牙が身体を動かす気配がした。 と同時にこめかみに柔らかい感触が触れる。 「なっ、何して!」 人目のあるところでキスされたことが恥ずかしくて思わず突き放す。見つめた蒼牙はニコニコと嬉しそうで全く悪びれた様子はない。 「だって悠さん真っ赤だから。可愛くて、つい。」 クスクスと笑いながら残りの食材を袋に入れていくのを「ふざけんな!」と拳で殴った。 「あらあら、仲良しねぇ。」 「!!!!」 蒼牙の隣で同じように袋詰めしていたさっきの女性が、俺たちを見て微笑む。 「うちの奥さんは照れ屋ですから。そこも可愛いんですけど。」 「頼むから、お前もう黙ってろ!」 また受け答えしているのにそう言い捨て比較的軽い袋を掴む。無視するわけにもいかず女性に会釈をすると、机の上の大量の荷物を指差し蒼牙を睨み付けた。 「残りの荷物、お前が持てよ。それ卵が入ってるから気を付けろ!」 「え?ちょっ、こんなに!?」 「割ったらロールキャベツは無し!」 そう言い残すとスタスタと歩き始める。 「待ってください!」と後ろから聞こえたが、その言葉は無視して俺は自宅へと急いだー。 「こんばんは、お邪魔します。」 「おじゃましまーす!」 約束の時間ちょうどにナオちゃんがマンションに着いた。駅で内藤くんと待ち合わせしていたらしく、二人で仲良くやってきた様子に顔が綻ぶ。 「いらっしゃい。ご飯できてるから、さっそく食べよう。」 案内したダイニングでは食器をセッティングしていた蒼牙が待っていて、二人が入ってくると嬉しそうに笑った。 「あの、悠さん。」 蒼牙と内藤くんが会話をしている側から離れると、ナオちゃんが近づいてきてソッと話しかけてくる。 その様が可愛くて「ん、何?」と微笑むと、少し恥ずかしそうに箱と包みを差し出してきた。 「これ···こっちは母からです。それと、こっちは私から。」 「え···どうもありがとう。」 思わぬプレゼントに驚いたが、気持ちが嬉しくて素直に受け取った。 「開けてみても良い?」 「はい。気に入ってもらえると良いんですけど。」 照れくさそうにしているのが何とも可愛い。 こういう表情は蒼牙と似ているな···と思いながら、ナオちゃんからのプレゼントを開いた。 「···ありがとう、嬉しいよ。大切に使わせてもらうね。」 中身を確認して自然と笑顔が溢れる。 ふふっ···と笑うナオちゃんを可愛く思いながら、もう一度箱の中を見つめた。 「中、何ですか?」 俺達の様子を見ていたらしく、蒼牙がヒョイッと覗いてくる。 それは揃いのマグカップで、白を基調にしたシックなデザインが感じが良い。 少し大きめなサイズだからコーヒーだけでなくスープやカフェラテなんかにも使えそうだ。 自分達では買わないブランド銘に、高かっただろうにと申し訳なくなる。 それにしても、これって··· 「結婚祝いだと思いますよ?」 「ッ!」 俺の心を読んだかのようにタイミングよく告げる蒼牙に言葉が出ない。 まさか、そんなわけないだろ···と気持ちを込めナオちゃんを見ると「はい、おめでとうございます。」と微笑んでいて。 「え、いや、えぇ?」 シドロモドロな俺を横目に、蒼牙が「ありがとう、ナオ」と頭を撫でている。 「悠さん、悠さん。もう一つの包みは?」 「····ッ、そうだね。開けてみるよ。」 カップを手に固まっていた俺を現実に引き戻したのは内藤くんの声で、綺麗に包装されている包みを開けていった。 この流れは···すごく嫌な予感がする。 頭の中で警報が鳴り響くも、開けないわけにはいかず。そして包みを開いた途端に、俺の警報は間違っていなかったと確信した。  「······ッ、これを···俺にどうしろと···?」 「············ははは。」 蓮華さんからの贈り物はそれはそれは可愛らしいエプロンで、カラフルな花柄に裾部分にはおしゃれなレースが施されている。 これまた自分では買わないようなブランド銘が書いていて。 冗談か本気か分からない蓮華さんからの贈り物に、その場で思わず項垂れていた俺の肩を内藤くんがポンッと叩いた。 「うわあ、素敵、可愛い!悠さん絶対に似合いますよ!」 「蓮華さん···ナイス···!」 「·····ありがとう··蓮華さんに···お礼しないと···な··」 広げたエプロンを手に喜ぶナオちゃんと、その横で口を押さえて小さくガッツポーズをする蒼牙。 くそっ、蓮華さんもこの兄妹も···感性は一緒か! 「は、悠さん···ほら元気出して下さい!おでん···おでん食べて飲みましょう!めっちゃ美味しそう、腹減りました!」 「····そうだな、ありがとう···内藤くん··」 ダメージをくらって力なく笑う俺を励ますように、内藤くんが鍋を指差す。 この流れの中で唯一俺の味方になってくれていることに感謝し、俺はフラフラと立ち上がった。 「これ着てキッチンに立ってる悠さん私も見てみたい。蒼牙ばっかりズルい!」 「ダメ、それは俺だけの特権。」 「蒼牙のケチ、あんまり心狭いと悠さんに愛想尽かされるんだから。逃げられても知らないからね。」 「どんなに言っても、悠さんの可愛い姿は見せません。」 繰り広げられる不毛なやり取り。 俺はお前にだって見せたくないよ、蒼牙··· いまだエプロンではしゃぐ兄妹を横目にため息を吐いてしまうのは仕方ない····と思うー。

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