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まずは友達から

(内藤くん目線) 蒼牙からナオちゃんの連絡先を聞いた俺は、その日さっそくLINEを送った。 こんなに必死になって女の子に連絡を取るのは初めてのことで、ぶっちゃけ引かれてるかも···と心配している。 今日は蒼牙のマンションで四人で食事をすることになっていて、女神様を駅まで迎えに行く大役を引き受けた。(というか、蒼牙から無理矢理奪った) 「そろそろ着くよな···」 改札口付近でそわそわと時計を確認しながら呟く。 あ~···心臓バクバクする。 LINEでやり取りはしてたけど、ちゃんと会うのはこれが初めてだ。 緊張が続いてなんだか··· 「····吐きそう。」 「え、大丈夫ですか?」 「!!!」 突然聞こえた声に顔をバッ!と上げた。 目の前には女神様ことナオちゃんが立っていて、俺を心配するように顔を覗き込んでいる。 「え、あれ!?いつの間に!」 思わずキョロキョロと周りを見回す俺をナオちゃんがクスクスと笑う。 ああ、笑い声まで天使···。 「はい、今来ました。あの、大丈夫?」 「うん、大丈夫。ごめん、吐きそうっていうのは気分悪いとか、そういうのじゃないから!ちょっと緊張して、その、」 テンパる俺を前に「はい。私もちょっと緊張してます。」とナオちゃんは笑った。 ヤバイ、まじで可愛い! 目の前にストライクゾーンドンピシャな女の子がいて緊張しない男はいないと思う。 「えっと···それじゃあ改めて。蒼牙の代わりに迎えに来ました、内藤隼人です。あの、連絡先を教えてくれてありがとうね。」 「こちらこそ、ありがとうございます。蒼牙の妹の秋山那緒です。」 今更な挨拶を交わし笑いあう。改めてナオちゃんを見つめてドキドキした。 俺よりは低いけど、女性にしては高い身長。これ、170あるんじゃないかな。 ヒールのあるブーツを履きこなしているため俺と変わらない目線。 真っ直ぐに···凛と立つ姿に見惚れてしまう。 「隼人くん?」 「ッ、ごめん。じゃあ、いこっか。荷物持つよ。」 ボーッと見つめていた俺に困ったように笑いながらナオちゃんが名前を呼んだ。 LINEで名前呼びをしていたけど、こうして実際に呼ばれると··· 嬉しさと恥ずかしさで赤くなる顔を隠し、両手に持っていた荷物を受け取った。 「ありがとうございます。」とお礼を言ってくれるのに笑顔で返し、俺達は蒼牙達のマンションへと向かった。 まずは友達から。 俺のことを知ってもらいたい、ナオちゃんのことを知りたい···初めてこんなにも人に惹き付けられたんだ。 『頑張って』と蒼牙に言われた言葉を思いだし、心の中で返事をする。 頑張るよ蒼牙! いつかお前を『お兄さん』って呼んでやるからな! マンションまでの短い時間、俺は全神経を隣の女性に注ぎながら歩いていった。 「はい、隼人くん。」 「ありがとう!」 熱々のおでんが入ったお皿を手渡され、もう、なんか色々と堪らない。 悠さんの手作り料理にも感動もするが、それ以上にナオちゃんが取ってくれたということに感動する。 「内藤くん···気持ち悪い。いつの間にか名前呼びだし。」 向かいに座っていた蒼牙が呟くのを聞き流し、俺はおでんに箸をつけた。 「うまい!めっちゃ美味しいです、悠さん!」 「そっか、良かった。いっぱいあるからしっかり食べろよ。」 嬉しそうに笑うと悠さんは自分の皿に手をつける。 手作りのおでんなんか久しぶりで、コンビニとは違う味わいに感動した。 蒼牙から悠さんは料理上手とは聞いていたが、これは本当にうまい。 隣にいるナオちゃんも「美味しい!」と喜んでいて、何となく恥ずかしそうな悠さんの様子が可愛かった。(可愛いって···悠さんごめんなさい) 「ねぇ、蒼牙。さっきからどうしてそんな顔してるわけ?」 ナオちゃんが話しかけるのにつられ視線を向けると、そこには面白くなさそうな表情でおでんを食べている蒼牙がいて。 この顔は知っている。 これは蒼牙が訳の分からない嫉妬をしている時の顔だ。 こいつ、またバカなこと言う気だな。 「おでんは失敗だった···」 「は?お前が食いたいって言ったんだろ。」 だいこんを箸で摘まみながらボソッと呟く蒼牙に、心外だと言うように悠さんが振り向いた。 「だってこれ、めっちゃ手作り料理じゃないですか。内藤くんに悠さんの手作りを食べさせるなんて····水炊きにすれば良かった。」 やっぱり! こいつのこの独占欲はいったいどこから来るんだ? 「····ごめんね、内藤くん、ナオちゃん。バカはほっといて、しっかり食べて。」 「大丈夫です悠さん。蒼牙がこう見えて実はバカなのは、俺も学習しましたから。」 「二人してバカバカ言って、酷くないですか?」 「「だって、ほんとにバカだろ。」」 「うわぁ、凹む···」 「·········」 呆れる悠さんと俺の横で、ナオちゃんはポカーンと蒼牙を見つめている。 「ナオちゃん、ナオちゃん。どうかした?」 「···え?あ、ごめんなさい。ちょっとびっくりしちゃって。」 肩を軽く叩くと、我にかえったように瞬きをしていて、切れ長な瞳が丸くなってる。 「蒼牙···そんな風に独占欲を見せることなかったから。今まで付き合ってきた彼女からの手作りお菓子とか友達にあげてたじゃない、頼んでもないのに私にも。」 「ええ!!こいつが!?」 「ナオ、余計なこと話さなくていいから!」 思わぬ話に驚いてしまう。 この悠さんの笑顔すら見せるのを嫌がる蒼牙が、付き合ってきた彼女の手作りお菓子を他人に分けてあげてたなんて···! 「この間も思ったけど、蒼牙がデレてること自体が新鮮。昔はもっと淡々としてたから。」 「ええぇ!どの面下げて!ブッ、アハハハ!」 「ナオ···勘弁して···!」 「···········」 滅多に見られない、慌てふためく蒼牙が可笑しくてゲラゲラと笑ってしまう。 そんな蒼牙の横では顔を赤らめた悠さんが黙々とおでんを食べていて、聞こえない振りを決め込むその姿が可愛かった。(またまたごめんなさい悠さん) 「笑いすぎだよ、内藤くん!」 「ごめんごめん、だって···ギャハハハ!···腹いてー。」 一頻り笑い涙を指で拭うと、俺はナオちゃんに向き直った。本当はもっと爆弾発言を聞きたい気もするが、悠さんの手前ここは話題を変えてあげよう。 俺に感謝しろよ、蒼牙。 「ナオちゃん、おでんの具材何が好き?俺はね、もちきんとじゃがいもが好きだなぁ。」 やや苦しい話題転換を図ってみる。 それでも何とか成功したらしく、ナオちゃんは鍋の中を覗き込んで「うーん···」と考えている。 「どれも好きだけど、やっぱり卵とロールキャベツかな。」 「え、ロールキャベツ入れるの?」 「入れない?あ、ほら、ここにも入ってるよ。美味しいよ、食べてみる?」 「うん。ありがとう。」 ニッコリと笑ってロールキャベツをおたまに乗せて渡そうとしてくれるのを、お皿を差し出して受けとる。 「どこかで聞いたことあるやり取りだな。」 「ですね。···はい、悠さんもロールキャベツどうぞ。」 「ん、」 良かった、悠さんも蒼牙も元に戻ったみたいだ。 安心しつつナオちゃんからもらったロールキャベツに箸をつける。 柔らかく煮込まれたそれは確かに美味しそうだ。コンビニでは見たことあったけど、食べるのは実は初めてだったりする。 「ほんとだ、うまい!」 「····うん、うまいな。」 「「でしょ?」」 俺と悠さんの言葉に、秋山兄妹が声を揃える。 その様が可笑しくて俺は声を出して笑った。 見れば、悠さんも肩を震わせていて。 どうやら秋山家では定番の具材らしいロールキャベツ。美味しそうに食べる二人の姿がよく似ていて、やっぱり兄妹なんだと余計に笑えた。 こんなに楽しい食事は久しぶりでテンションが上がりっぱなしの俺。 そのうち『内藤くん、うるさいよ』とかいって蒼牙から邪険に扱われるのだろうけど、今日はナオちゃんという強い味方がいる。 その時にはまた過去の話でも持ち上げてもらおうかなー。

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