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電話の向こう···後日談
side 悠
「内藤くん···助けて。」
新幹線の中、すがるような思いで内藤くんに電話をした。
色々説明しなくても何となく事情を察してくれるのはありがたい。
昨夜の失態をきれいに忘れられていたらどんなに良かったか。
『帰ったらサービスしてやるよ』
···俺はバカか。
どうしてあんなことを言ってしまったのか···酔っていたからとはいえ、雰囲気に流されすぎだろ!
一人で家に帰ってどんな顔して蒼牙と会えば良いのか。あんなことをしたり言ったりしておいて、平然としていられるほど俺の神経は図太くない。
とにかく内藤くんが一緒に帰ってくれれば、何とかなりそうな気がする···
「出張お疲れ様です、悠さん!」
「悪いね、急に頼んで。」
「いいえ~。あ、ありがとうございます!」
駅まで迎えに来てくれた内藤くんに土産を渡し、歩いてマンションまで帰る。
道すがら、ナオちゃんとの進展状況を聞いたり内藤くんの愚痴(主に蒼牙)を聞いたりしていたからか気づけばもうマンションの前で。
ヤバい···心臓がバクバクしてきた。
部屋の鍵を開けながら平静を装おうと深呼吸をした。
「お帰りなさい!悠さ···ん、って何でいるの?」
「ただいま、蒼牙」
犬のように玄関まで出迎えてくれた蒼牙の予想通りの反応に、俺も内藤くんも苦笑した。
「俺が荷物持ちに頼んだんだ。土産も渡したかったからな。」
「よーっす、蒼牙。お、いい匂い!今日は魚か!腹へった~。」
「····何普通に上がろうとしてるの。」
「ええ!ダメなの?」
「上がって、内藤くん。お茶入れるから。」
「は~い。お邪魔しまーす。」
「ちょっと、悠さん!」
追い返そうとする蒼牙を無視して内藤くんを招き入れた。
俺の気持ちを汲んでくれたのか内藤くんはニコニコとリビングへと向かう。
「いい匂いがする。晩御飯作ってくれたんだな···ありがとう。」
キッチンから魚の焼けた美味しそうな香りがしてくる。夕食を準備して待ってくれていたことが嬉しくて、自然と笑顔になった。
「はい、秋刀魚ですよ。ちなみに日本酒も用意してあります。」
嬉しそうに答える蒼牙にもう一度お礼を言い、とりあえず着替えようと寝室に向かった。
良かった···内藤くんのおかげで変な緊張なく蒼牙と会話ができた。
ネクタイを外し上着をハンガーにかける。
やっぱり家は落ち着く···なんて考えていたら、いつの間に来ていたのか背後から蒼牙に抱き締められた。
「···お帰りなさい、悠さん。」
「ん、ただいま。」
首筋に甘えるように顔を擦り寄せる蒼牙の頭をポンポンッと叩き、クスッと笑いが溢れた。
···こういうところが可愛いんだよな。
「ん、」
チュッ···
重なってきた唇に心地好さを感じながらも、リビングにいる内藤くんが気になる。
「悠さん···」
「ッ、待てって···向こう、内藤くんいるから。」
名前を呼び、さらに深く口付けてこようとする蒼牙の身体を軽く押した。
「····悠さん、気まずくて内藤くん呼んだでしょ。」
「う、それは···」
ニッコリと微笑む蒼牙に尻込んでしまう。
全くその通りなものだから言い返すこともできない。
「ほんと、可愛いことしますよね。だから余計に苛めたくなっちゃうのに。」
「なんだよ、それ···」
「悠さん恥ずかしいだろうから、サービスは無しにしてあげようかと思ってましたけど···俺じゃなくて内藤くんを迎えに呼んだからペナルティです。」
「はぁ!?」
蒼牙が意地悪く笑っている···
ヤバい、嫌な予感しかしない。
もしかして、内藤くんに頼らなかったら免れていたのか?
「選ばせてあげます。
①蓮華さんのくれたエプロンでプレイ
②ナース服でコスプレエッチ
③騎乗位でセックス
④俺の前で昨日の続き···はい、選んで。」
「ッ!!な、」
指を立てながらとんでもない選択肢を提示してくる蒼牙に、冷や汗が流れる。
「早く決めないと、俺が決めちゃいますよ?」
「え、ちょっと待て!」
ニコニコと爽やかな笑顔で腹黒いことを言う。
···落ち着け俺。
とりあえず④はない。それは絶対にない。
①は···むり、無理だから!蓮華さんに向ける顔がなくなってしまう。
②は···1度も2度も同じか?···でもあの時のように蒼牙が他人みたいになるのは嫌だ。
「決まりましたか?」
逃がさないと言うように腕を掴み、それはそれは綺麗に笑う蒼牙。
腰が引けてしまうのは仕方ないよな···
「う·····」
「じゃあ俺が決めます。④··」
「③番!」
慌てて答える。
コイツ、今④番選ぼうとしやがった!
「はい、決まり。じゃあ楽しみにしてますね。」
「·······くそっ、····」
チュッと軽くキスをして、蒼牙はリビングへと戻っていく。
あの笑顔···俺が③番選ぶのが分かってたに違いない。うまいこと誘導されてしまったのが悔しくて、その場に蹲った。
顔が熱い。
けして嫌なわけではないのがまた悔しい···そう思ったー。
(内藤くん目線)
寝室から戻ってきた蒼牙は目に見えて機嫌が良い。悠さんの後を追いかけていって、いったい何をしてきたのかなんて聞かなくたって分かる。
だから頼む···いらないことは言わないでくれ。
「内藤くん、悠さん迎えに行ってくれてありがとうね。晩ご飯食べて帰る?」
「え、良いのか?」
絶対に『帰れ』と言われると思ったのに。
思わぬ優しい言葉に驚きつつも、嬉しくて顔がパッと明るくなってしまう。
けど、やっぱり蒼牙は蒼牙だった。
「俺これから悠さんとめちゃめちゃイチャつくけど、それでも良かったらどうぞ。」
「ッ!」
ニッコリと笑顔の蒼牙が怖い····
『さっさと帰れ』と言外に言われているのが手に取るように分かる。
ごめんなさい悠さん···俺はここまでのようです····。
side 蒼牙
「あれ?内藤くんは?」
「帰りましたよ。悠さんによろしくって言ってました。」
着替え終わった悠さんがリビングを見て首を捻る。
食事を並べながら答えれば「ちゃんとお礼言ってないのに···」と呟くのに、「明日伝えときますよ。」と微笑んで見せた。
やっと帰ってきた悠さんとの時間を邪魔されるわけにはいかないからね。
お礼なら今度食事でも奢ってあげよう。
そんなことよりも···
「早く食べましょう?冷めたら美味しくないですよ。」
箸を渡しながら微笑めば「そうだな。」と嬉しそうな悠さん。
好きな和食を選んだのは正解だったようだ。
「しっかり食べて、早く風呂入って、ベッド行きましょうね。」
「····ッ!」
何でもないことのように告げれば、途端に真っ赤になるのが可愛い。
無言で秋刀魚をつつく様にクスクスと笑いながら、俺は用意していた日本酒を注いでいったー。
翌朝
「お前、今日から三日間ベッドに入ってくるなよ!」
「え!?ちょっと待ってください!」
「うるさい!もし入ってきたら一週間に伸ばしてやる!」
「ええ!?ごめんなさい、謝りますから!」
「謝るくらいなら加減しろ!この絶倫が!」
朝から怒られました。
だけど···俺の上で乱れる悠さんが見れたので後悔はありませんー。
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