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ハロウィンですから

side 蒼牙 「誰が用意したの···この衣装。」 スタッフルームで手渡された衣装を片手に呟くと、隣ですでに着替え始めていた内藤くんが笑った。 「まぁ良いじゃん。これでお客さんが喜んでくれるなら···ていうか蒼牙絶対似合うぜ、それ。」 「これがあるから休みが取れなかったのか···せっかく悠さんと休みを合わせようと思ったのに···。」 ブツブツと文句を垂れながらも、渡された衣装に手を通す。 グレーのフリルつきシャツ。 襟の立った黒のマント、裏地は赤色。 どう見てもドラキュラの衣装だけど···俺が着たら仮装というか、何というか···。 「内藤くんは何だか可愛いね。···似合うところが怖い。狼男というか、やんちゃな犬みたいだけど。」 「お前には言われたくないな。なんだよそれ、反則だろ。」 大きな耳としっぽ。 茶色のフワフワのベスト。 狼男の衣装に身を包んだ内藤くんはニカッと笑った。 「蒼牙、ちょっとそこ座れ。」 「え、何で?」 「いいから、ほれほれ!ヘアゴムとるぞ!」 「うわっ!」 内藤くんにイスに座らされたかと思うと、前から髪を両手でかき上げられた。 その手にはムースがついていて。 整髪剤の香りとシュワシュワという音と共に何度も髪を撫で上げてくる。 「うん、やっぱりドラキュラならこの方がそれっぽいだろ。見てみ!」 「···うわぁ。」 ロッカーに備え付けの鏡で確認して苦笑した。 まさかのオールバック。 これ、有りか···? 「秋山、内藤、着替えたか~。おぉ!似合うなぁ二人とも!じゃ、今日は一日その衣装で頑張ってくれな。あ、写真撮影希望のお客さんがいたらちゃんとサービスしてくれよ!」 「····はい。」 「了解です!」 どうやらサービスで写真撮影もあるらしい。 店内を見渡せばハロウィン一色の飾り付け。 いつもとは違う雰囲気に若干のワクワクを感じつつ、俺達はフロアに出たー。 「お~い···そうが~···生きてるか~?」 「·····生きてるよ~···。」 内藤くんと二人、やっともらえた休憩でぐったりとイスに座った。 ···すごい疲れた。 何これ。 お祭りムードにワクワクしたのは最初だけで、あとはめちゃめちゃ忙しいんですけど···。 お客さんの数も半端ないけど、ひたすら写真撮影。 内藤くんもあっちこっちに呼び出され、時には二人揃って写真を撮られた。 その上その度に女の子達の会話に付き合わされ、営業スマイルのし過ぎで顔が筋肉痛になりそうだ。 「·····俺、ナオちゃん来るまでもつかなぁ。」 「え、何?ナオを呼んだの?」 「呼んだよ···こんなイベント、一緒に楽しみたいじゃん。···その前に疲れたけど··」 「はは···確かに。」 「ま、頑張ろうぜ···てか、これってボーナスに上乗せしてくれないかな。こんだけ頑張って働いてるんだからさぁ···」 「ほんとだね。ボーナス欲しい···使い道は決まってるから、しっかり欲しい···」 「んあ~、どうせ悠さんにだろ?どうするんだ?」 「ん~···内緒。内藤くん、喋りそうだから。」 「あ~···否定できね~···」 そんなやり取りをしているうちに時間は過ぎ。 気づけば休憩時間は終わりに近づいていた。 「内藤、お前に指名客!めっちゃ可愛い女の子!!」 「来た!ナオちゃんだ!」 スタッフルームの扉を開けて、同僚(ミイラ男)が興奮気味に声を掛けてくる。 途端に元気になった内藤くんは、いそいそと立ち上がると鏡で姿を確認し始めた。 「ナオによろしく。俺はもう少し休んでから出るよ。」 「ん?おー···てか、お前も来いよ。」 「いいよ、俺は。」 「や、秋山にも指名客。女の子の連れの男から。」 「!!!!」 まだ扉から顔を覗かせていた同僚がそう告げるのに、俺は慌てて立ち上がった。 「男で残念だな~。まぁ、男にしては雰囲気のある人だったけど。」 まさか、本当に? だって今日は『お前が仕事なら俺も休日出勤するかな』って言ってた。 というか···この格好を見せることに···? 思わず自分の衣装を見直す。 いや、普通に恥ずかしいから! 「はやくしろよー。とりあえずテーブルは案内してるから、後はお前らに任せたわ。」 「「はい!」」 それでも来てくれた嬉しさの方が勝るのはどうしようもない。 内藤くんと二人、声を揃えて返事をしてしまったことに複雑な思いを抱えながら···俺は悠さんの待つテーブルへと向かったー。

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